2.
堕ちる?
間違っているよ、お前は。
だって俺は最初から――――堕ちていた。
本当はもうずっと、遥か前から、
自分でも気づかない振りをしながら。
俺の身体の上に飛びかからんばかりの勢いで体重を預けてきたのはキルアだったが、次の瞬間、その腕をとって組みしいたのは俺だった。
ヤツは呆気にとられたような表情を浮かべたが、すぐにそれも満足げな笑みに変わる。
ああそうだ。
お前の勝ちだ。
あのとき確かに俺は嫉妬した。
見知らぬ男と出て行く、その後ろ姿を見て。
お前の行為と自分の感情。
両方とも、認めるのがひどく辛い事実だった。
まがりなりにも俺は、お前が子供だ、子供なんだとずっと自分に言い聞かせてきたからだ。
ゴンと二人、はしゃぐお前をずっと見てきた。
兄のように見守っていたかった。
羞恥心、罪悪感。
突然熱くなった心に身体が凍り付いて、喧噪の中一歩も動けなかった。
記憶と欲望、全て忘れたくて塗り込めた。
だけど今、解き放たれていく。
床に押し付けられる白い身体。絡み付く体温。
のけぞった背中に舌を這わせ、首筋を口づける。漏れた喘ぎ声。
…リオ、レオリオ。
指が沈む。飲み込まれる。糸を引いた唾液。もう、ひどく濡れて緩んでいる。
…はや、く、
欲しいのか。
…うん。
慣れた仕草で尻に手を当て押し広げる。
切ないくらい、開ききった通路。
あ、
好い。
熱い肉。先端を程よく締め上げられ、俺の背中に快感が走る。
もっと…
…もっと、何だ?
声がかすれた。すっかり馴れて準備万端のくせして、ガキのは、狭い。
…のを、奥まで、
ずっと……。
(欠けてるから――――埋めて。)
お前はこれが…好きなのか?
うん。
(空洞。俺の中に空いた、)
男にこうされて……好いんだな。
…うん。好い。
(つかの間、忘れるから。)
すげえ…好い…っ…
(自分の空虚さを。)
腕の中で泣きそうな表情をして、もっと、もっと自分を食べてと訴える。
薄闇の中に、潤んで光る青い瞳が熱を帯びて、確かに俺を捉えてる。
俺を?
……本当に?
「レオリオ、レオリオ…」
呪文のように繰り返し、最後は悲鳴のような声に変わる。快感に、名を呼ぶ事すら及ばなくなる。
(キルア、キルア、)
(…今、誰を想ってる?)
きつく閉じられた瞳、歪む顔、のけぞり、喘ぎ、震え続ける。
(俺ではないだろう。散歩のついでに気まぐれに思い出したような、俺じゃないだろう。)
しなやかな筋肉の乗った、だがまだ華奢な骨格。
汗ばんだ肌が、青を孕んだ闇の中で真珠のように鈍く光っている。
そのすべてを眼下にし、恍惚感が突き上げる。
自分と同じ生き物とは思えない――――美しさ。
(なぁ、誰を―――?)
己の欲望でその身体を抉り、突き刺し、衝動に駆り立てられるまま動く。
前後不覚に陥ったガキの口から漏れるのは、もはや獣のような声。
(――――ひょっとして、お前自身にもわからないのか?)
でも、覆いかぶさって思い切り深く口づけたのは、別に口封じのためじゃない。
その絶叫すら、丸ごと貪り尽くしてしまいたかった。
俺のあずかり知らぬ、お前の心に秘めた想いもろとも。
(…侵入され、食い尽くされ、)
(自分を委ね、放棄する、とき、たどり、着く。)
意識が、白く弾けた。
(相手が誰かわからなくなるくらいの―――――――絶頂感。)
つづく
【作者後記】
二話構成にするつもりだったのですが、そうすると二話目が長くなる気がしたので三話構成に…。