天体観測

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12.Monologue Two

日本に来て間もない頃だった。
放課後一人残ってぼんやり音楽を聴いていた。
その日は本当に夕焼けが見事で、僕はふと屋上に行きたくなったけど鍵がかかっていた。
それでも校舎の一番高い階まで上り夕日がひときわ見事な空いている教室に入り窓辺に立ってじっと天と地を比べ見た。


校庭にはもう誰もいなくて、音楽がひどく美しく響いた。
久しぶりに聞いた懐かしい旋律、第九だった。

ぐらりと目眩がして世界が歪む。
空が近づいて、衝動が僕を貫いた。

―――自由になりたい。



ここから、飛んでしまおうか?



だが、窓枠を握る手にぐっと力を込めた瞬間のことだ。背後に視線を感じて振り向いた。

途端に空も夕日も遠のいた。僕は自分が教室に見知らぬ子と二人立っていることに気づいた。彼が戸惑いながらも無遠慮な視線を僕に注いでいたから、僕はやっと色々な細かい――だけど大事なことを思い出した。この新しい高校で「変な外人の優等生」を演じてること、ステイ先の親切な人々が僕を待っていること、遠くにいる母の顔。


僕は覚えている。
思えばあれが碇シンジくんとの最初の出会いだった。

そして先生が死んで一周年の日だった。



あの頃の僕は既に、自分がおかしいとよくわかっていた。
だけど半端に要領が良かったから隠し通すことができていた。

一週間が終わる日、夕暮れが近づくと居ても立ってもいられなくなる。
終電に飛び乗り繁華街に出る。
夜になっても眠らない街角で、見知らぬ人の群れを見つめる。
一人、二人、通り過ぎる。三人目、振り向いた。こっちに来る。

結局、どこにいっても僕は変わらない。
こうして昼間優等生を演じた後、たびたび深夜に部屋を抜け出した。
適当な相手を見つけて寝て、始発で帰る。
同年代の彼女が出来てからも断続的に続けた。


僕には自由が必要なんだ。縛られたくないんだ。
明け方電車を待ちながら自分で言い聞かせたものだった。
だけど自分でもうすうす気づいていた。
それは本当の理由じゃない。
だっていつも相手は似たような、年上の大人の男性なんだ。




【おわび】
すいませんm(_)m
この回で終わるはずだったのですが予定に反して伸びてしまいました…orz
設定にあったカヲルの過去を描き出したらとても収まらず…第二部回想編として続くことになってしまいました。
力量不足をお詫びいたします。続きへは「NEXT」からどうぞ。
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