Le travesti

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II

あまり広いとはいえない部屋の中、スペアベットは俺のベットの真横につけられた。少し俺のよりも低くて細い折りたたみ式の寝台。

横並びに寝そべっても、俺は別に、どうってことないって思ってた。

だって友達だもん。男だって女だって…おんなじことだ。

「明日早いし、もう寝ようか。」
「おう。」

俺は全く平常心で、スペアベットにごろり寝そべってケータイをいじりながら生返事をしたキルアも相変わらずで、俺たちはいつも通りの俺たちだった。

「キルア、灯り消してくれる?」

スタンドはスペアベットの向こう、キルアの方に近い小さな台の上にあったから何気なく俺はそう頼んだ。

「オッケ。…ん、どうなってんだこれ。俺の部屋のと違うぜ。」
「つまみを回すんだよ。」
「って、どれを。」

だからさ、と俺は起き上がる。そばのスペアベットに反射的に身を乗り出したそのときだ。
ぎしり。
自分のとは違う柔らかさのスプリングに右手が沈んで音を立てた。

…どきりとしたのは、まるでその音に合わせるようにキルアが急に振り返った、から。


めりこんだままの右手を動かせない。
急に側の身体を意識した。
熱、匂い。



「ねぇ、どれ?」

答えようとして、声が出なかった。変な間が空いてしまった。


次の瞬間、耳を疑うことが起きた。キルアが無造作に言い放ったのだ。


「…お前、俺とヤリたい?」


心臓が止まりそうになる。

だけど気づくと、うん、と俺は答えていた。
身もふたもない愚直さで、何の弁解も体裁を取り繕うこともせず、肯定の言葉が出てしまった。

早まった?答えた瞬間から戸惑いが胸中に広がる。俺から目を反らさないキルアの表情が恐いくらい穏やかだったからかもしれない。

でも、いいえ、と答える気になんてなれなかった。何だかわざとらしいし、正直嘘になる。今だって、布団からはみ出た長いジャージの裾からちらりと見える、キルアの裸足の白さが気になってしょうがない。

すると向こうは上目遣いで俺を見上げながらニッと笑った。瞳は冴え冴えと光っているのに、口角がきれいに上がって白い整った歯まで見えた。


消されなかった灯りにぼんやりとキルアの輪郭が浮かび上がり、伏せた銀色のまつげが長いことに改めて気づく。しかもその目が俺の下半身にじっと注がれてて、余計に身体が熱くなった。

俺は緊張して、ごくりと生唾をのむ。答えはしたもののすぐに何をすればいいのかわからなかった。キルアも部屋もいやになるくらい静かで、自分の鼓動の音だけがうるさく感じて頭がくらくらしてくる。するとマットレスが軋む音。キルアがそっと腕を伸ばし、そのまま傍らに身を寄せてきたのだった。


「まーったく、しょうがねぇなあ…」

つつっ、と白い指が服の上から触って、思わず、うっ、と声が出る。その反応に微かに笑みを浮かべて、でもキルアは指を滑らせるのをやめない。

「俺が女ってわかってから、夜に二人きりになったとたんヤリてぇか。」

俺は一瞬答えに詰まったけど、やっぱり、うん、と答えた。
はは、とキルアが乾いた笑い声をたてて言った。お前、どうしようもねぇな。
そうだね、と俺も少し笑った。

銀色の頭がくいと持ち上がり、目線があう。ほんっとにキルアって青い目をしてるな、ついみとれた。

「でも、」

キルアの顔が近づく。ああまただ。口角だけ上げるいつものあの笑い方。

「お前のそういうとこ、嫌いじゃねぇよ。」

目をつむったら、唇が重なった。









急すぎる展開なのに、いやになるくらい身体は正直だった。頭がごちゃごちゃとああでもない、こうでもないと言葉を紡ぎだす傍らで、一つの期待に向けて勝手に欲求が盛り上がってくる。別に上品ぶるつもりなんてないけど、あまりの簡単さにちょっと自己嫌悪。


キルアが寝間着代わりのジャージごと、無造作に下着まで脱ぎ捨てる。
でも上のTシャツを俺が脱がそうとすると、その手を遮り上目遣いに囁いた。

「別にこのままでも…出来るだろ。」

俺はといえばTシャツを脱いで、下着一枚になった所だった。相手は薄手とはいえ、上は着たまま。何だか変な感じ。
普通どうするんだっけ、と考えてから、そういえばと思い出す。

「あのさ、実は、俺初めてなんだ。」

勃起しながら言う台詞じゃないなと自分の下着に目を落としながら、間の悪い気分になり頭を掻いた。

「今更、言うのも変だけど。」

キルアは、へぇ、そうなんだ、とちょっと上の空みたいな声で答えて一瞬黙ったが、その後、ま、頑張れよ、とちょっと笑った。


「でもどうして、俺と?」

しかもあんな事があった後で。かろうじて残った理性が頭の中で囁いた。

「さあな。」

と相手は視線を泳がせ、しばらく沈黙。そしてふっと唇をゆがめ、肩をすくめて嗤うのだった。

「まぁ、暇つぶしっていうか?夜も長いし。」
「…はあ。」

もうよくわからない。ただでさえ頭が働かないから、開き直ってキルアの上に馬乗りになる。
ベットがぎしりと生々しい音を立てた。
肌の匂いが甘い。女の子はいい香りがするって本当なんだな、と思う。

戸惑うけど、どうすればいいのか全然知らないわけじゃない。ただ、最後までいったことがないってだけで。

キルアが俺の首筋を舐めた。キスすると力強く応えた。
そしてさり気なくリードしながら慣れた仕草で、少し性急なくらいに俺を迎え入れようとした。全てが順調すぎるくらいに進んでく感じだった。



だけど、俺はふとあることに、途中で気づいた。


キルアの指が冷たいんだ。
俺の下でガラス玉のような目を開けて、ずっと宙をみてるんだ。

ねえどうして、そんな目するの。
俺こういうの初めてだけど、でもさすがにぎょっとするよ。なんか別の場所にたましいとかいっちゃってるみたいだ。

何かが、変。おかしい。

経験もないくせに、今だって下半身は期待と欲望ではち切れそうなのに――もっと深いところかの直観が俺に言う。

このままにしちゃ、だめだと。


だから途中で手を止めた。俺の身体は相変わらず熱い。でも、

「キルア、」

どうしても今、訊かなきゃって思ったんだ。

「あのさ、大丈夫?」

「…は、何?」

はっとはじかれたようにキルアが反応した。ガラス玉みたいだった目に感情がともり、俺を見た。





続く





【作者後記】
どうもこんにちは。ここまで読んでくださった方、どうもありがとうございます。
実はこの話の第一話は今から何と二年前に書きました。第二話を書くまでこんなに時間が経つなんて…(汗
あの頃、立ち寄ってくださった方で今ここをお読みいただいてる方、おられるのでしょうか…?(おられない気もしますが…)もし、おられたら本当に恐れ入ります。また、こんな更新もほとんど無いようなサイトに新しくご訪問いただいた皆様には心からの御礼を申し上げます。

時間が空いてしまった理由は色々ありまして、まあ、第一には話の展開に詰まったまま、色々私生活やら他ジャンルもしくは他カプへの浮気やら(←すいません。でも私の別館へのリンクご覧になれば一目瞭然と思うんでυ)に気を取られてしまっていたわけですが…。
第二の理由として、結末である第三話の展開について、アイデアはあるけどそれでいいのかなー、と迷っていたというのもあります。というのも、考えついちゃった話が、まあ、残酷とまでは言わないけどちょっとしんどい展開で…。一応アンハッピーエンドではないのですが。でも、第二話を推敲しながら腹は決まりました。多分このまま行くと思います。

ごちゃごちゃと言い訳が並びましたが、この二年の間にハンタの連載が(特殊な形ではあれ)どんどん進展して、あれよあれよと息もつかせぬ展開にいつもわくわくしています。
特にキルアの成長ぶりには目を瞠るモノが…!そしてゴン様との予想を超えたメークドラマぶりにはもう悶絶としか言いようがない…。

久しぶりにこの話に手を入れながら、あー、時間経ったんだなあ、と思いました。まあ、所詮妄想話(しかも女体化)なんですが、この話のキルアは天空闘技場くらいのキルアが更にこじれたような雰囲気で描いてますんで…。やっぱ、ゴンと一緒にピトーと向き合ってる今のキルアとはすごく遠いなあって感じます。蟻編の終わった後のゴンキルはどういう感じになるんだろう…?今から楽しみです。

そういうわけで、これからもハンタを愛しつつ、まずはこの短編を終わらせるぞと心に誓っております。
それも出来れば年内に…頑張りたいなあ。(2008/12/13)





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