Le travesti

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I

あれは天空闘技場についてしばらくした頃だったと思う。
俺は突然、ふとしたはずみにそのことに気づいたんだ。

「キルアって…女の子だったんだ。」

思わず、口をついて出た言葉。

「…だったら、何だよ。」
キルアはふてくされたような顔で、でもしれっとした表情はあくまでも崩さない。
ふっと唇だけをゆがめて俺に笑ってみせた。
「弟があーなんだから、俺がこうでもおかしくないだろ。」

馬鹿みたいにそっか、と答えてすぐに話題を変えたのは俺の方だった。
強い、強いキルア。例え荒くれ男ばかりのこの場所でも、普通の女の子に必要な心配は無縁のように見えた。

だけどこのとき既に、俺はキルアという存在が気になってたまらなくなっていたんだ。




その後何事も無かったかのように日々が過ぎた。
思わぬ転機が訪れたのは、勝ち進み、個室を手に入れたときの事だ。

初めて、キルアに直接の危険が…訪れたのだ。

この階の住人は強かった。
そして中には、キルアの秘密を見抜き、良からぬ事を考える者すら――いた。

最初、何が起きたのかわからなかった。
夜俺は部屋に一人でいて、突然、ひどく胸騒ぎがしたんだ。


キルアの部屋に駆けつけたとき、侵入者は既にこときれていた。首筋に鋭い爪が抉った痕を見た。
片膝を抱え込むようにして傍らに座り込んでいるのは、キルア。
血しぶきを浴びて、鋭い目で前をにらみながら、荒い呼吸を繰り返している。
おびただしい赤に染まりながらも、足に軽い怪我を負っている他、外傷は無いように見えた。


「何だよ、」
腕を取って、助け起こそうとした、ただそれだけだった。だけど、

「気安く、触んな。」
ばっと腕を払われた。
その瞬間、目に入った。衣服の微妙な乱れ。
思わず気づかない振りをした。
触れてはいけない事の様な気がしたからだ。

だけど、握りしめた拳が震えるのを、心臓がドキドキ脈打って苦しいくらいになるのを自分でも止められなかった。
これは何?
怒り、不安、心配。
色々な感情がぐちゃぐちゃになって押し寄せて、頭がくらくらした。



ひとまず二人血で汚れてしまった部屋から出て、俺の部屋においでよといったら、キルアは無表情にすら近いいつもの平静さでそうだなと言ってついてきた。まるで何事もなかったみたいな無造作で透明な声だった。
そして部屋に入るなり、あー気持悪ぃ、シャワー借りるぜと言って持ってきた着替えと共に浴室に籠ったのだった。


柔らかい水音が聞こえてきて、俺は気が抜けてベットの端にそのまま座り込む。
大きいため息が出た。
腰から力が抜けて、何だか立ち上がれないんじゃないかという気がするくらいに。




キルアはひとまず汚れた部屋から出て、他の部屋にうつろうとした。しかし運の悪いことに部屋は満杯だった。次のトーナメントで誰かが負けて部屋の入れ替えがあるまで待たないとそれは無理だという。じゃあ部屋の清掃をと頼んだのだが、今日は金曜でもう時間が遅い。土日は清掃業者が来られないので無理だという返事が返って来て二人唖然とした。
仕方ないから、土日の間だけ俺の部屋にスペアベットを入れて対応することにした。

俺は別にかまわねぇよ、とキルアはしれっとした顔で言った。





続く



【管理人後記】

ついにやっちまいました書いてしまいました女体化ネタ…。
実はちょっと前から書いていてどうしようかと思っていたんですが、最近ゴンキルの更新少ないし…と思ったんで。
お許しください。
心の広い方にちらりとご覧になっていただき、「あらあら」と笑っていただけたらうれしいことこの上ないです。


…ちなみに男バージョンよりもキルアが硬派になりそうな勢いなのはなぜだ。でもえっちなことはおこりそうです。
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