嫉妬

モドル | ススム | モクジ

  (3)  

重いドアを閉めると、ふっと音が去る。もと来た階段をあがって上に出ると、そこは別世界のように静かな夜の街だった。
すぐ近くの自販機の側に、イベントに来ているらしい人々が二、三人たむろしている。シンジはため息をついた。

「おい、お前、高校生だろ。」

側で甲高い声がして振り向くと、小柄なベリーショートヘアの少女がいた。男の子が履くようなだぶだぶのジーンズにナイキのスニーカー。ブランドTシャツに パーカーを羽織っている。首に幾重にもかかった繊細なチェーンが、手首の重厚な皮バンドと奇妙な対比を成して格好良くまとまっている。顔は化粧っけがない が、目鼻立ちの濃いなかなかの美少女だ。耳と鼻にピアスがついていて、まともに目と目があって、シンジは微妙に、苦手な人種かも、と及び腰になる。

「…そうだけど。」
「やっぱり!いや、自分もなんだけどね〜。何年?オイラは2年。っていっても、こないだダブったんだけどさー。」
「僕も…2年。」
「何、1人なの。彼氏は?」
「え…いや、僕は…」

こわばった微笑みを浮かべる、シンジ。その時、後ろから声がした。

「シンジ君、良かった。ここにいたんだ。帰っちゃったかと思ったよ。」
大柄な女子高生…ではなく、カヲルだった。
「おー、カヲルじゃん。」
「やあ、マナ。いつ来たんだい?」
「何、さっき来たんだよ。Kixsで飲んでてさあ…。」

どうやら二人は知り合いらしかった。

「それにしても、何そのカッコ。つうか、半端なく似合ってんだけど。」
「見ての通りさ。男の子でも歓迎されるためだよ。似合ってるかい?うれしいな。」
「まじで超かわいーよ。カノジョにしたいくらいだ。」
「本当かい?そんなことを言うとすごく期待しちゃうよ。」
「でも今はダメー。こないだ出来たカノジョとラブラブだから〜。それに基本的に男とバイはお断りなの。」
「ちぇっ。」

軽口をたたく二人を黙ってみているシンジに、少女がふと思い出したように視線を向ける。
「で、まあ、来たらなんか高校生っぽいのがいるから声かけたんだ。基本的にオトナが多いからさあ。めずらしいじゃん?でも、カヲルの友達とは知んなかった。…ひょっとして、彼氏?」
「うーん、まだ違うけど、ひょっとするとそうなるかも。」
とカヲル。
「ち、違う…。」
とシンジ。

「はははっ、何、苦戦してんじゃん。」
屈託無く少女が笑った。
「お前、顔いいのに、な〜んかダメだよなあ。」
「ふん、余計なお世話だね。」
カヲルが口をとがらせる。

マナと軽口をたたくおどけたカヲルが、 のびのびとしているのに今更ながらシンジは驚く。学校で見る、人当たりはいいがどこか超然とした彼と別人のように見えた。

「まあ、じゃあ、踊ってくるわ。がんばれよ、カヲル。オオカミになるなよ〜。」
ぽんと二人の肩をたたいて、少女は地下へと消えていく。

気がつくと、たむろしていた人々も少なくなり、カヲルとシンジは二人残されている。

「そういえば、もうすぐ、ショーが始まる時間だな…。」
腕時計に目を走らせてカヲルがいう。

「行きたければ、行ってもいいよ。…もともと僕が無理をいっているわけだし。」
「いやいや、僕こそちょっと強引に呼びつけてしまってむしろ悪かったね。僕はたまにこうして羽目を外して遊ぶのが好きなんだけど、君にも珍しくて面白いかと思ったんだ。ショー自体は、もう何度も見て知っているから別に気にしなくていいよ。それより…」

ふとカヲルと正面から目があった。

「僕と話したいことがあるんだろう?」
「…うん。」
「どこか、ゆっくり話せるところに行こう。」
モドル | ススム | モクジ