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  初恋  

2.


押し倒しているような格好で上から見下ろす。
向こうはやや顎をあげて俺を上目遣いに見る。
モケットの白に少し伸びた黒髪が散らばっている。

いざ下に敷いてみてその体躯の小ささに驚く。だが服の上から触る筋肉は固く骨格は頑丈だから、ガキじゃないことに安心する。

にしても、見事な童顔だ。10代半ば位から年を取っていないんじゃないかって気がするくらいに。ま、多少肌の色ツヤが違うかもしれねぇが、それもこいつみたいに東方系人種だと俺には判別がつかなくなる。

「男とヤるのは初めてだ。」
敢えて話す必要もないことを、俺は言った。
「そうか。」
淡々とした声で相手が答えた。もう笑ってなくて、無関心に近いような感情の読めない眼差しをぼんやりと俺に向けている。
「何か違うか。」
「…まあ、それなりにな。」
確かにお前にとっては男も女もさほどの違いは無いんだろうな。いやそれどころか時々、生きてる人間と死んでる人間の区別すらしてねぇかもとまで思ったが言わなかった。

それにしても実におかしなことになってる。間が悪いのをごまかすように俺は笑った。正直、えらく戸惑ってた。
ぐずぐずしてたら、フェイの方が先に動いた。せっかちなのはこういうところでも変わらないらしい。頭をぐいと引き寄せて噛み付くようにキスしてくる。一連の動きが淀みなく滑らかで、いや、うまいもんだと俺は呑気に感心する。


先に服を脱ぎ始めたのも向こうだった。手を貸そうとしたら、その前にお前も脱ぐね、というからおとなしく従った。のんびりしてた俺がトランクス一枚になったとき、同様に半裸になっていた向こうが寄ってきて、傍らに横たわるような格好で服の上から触り始めた。
布の上を指が滑る繊細な感触に、体中の血液が集まる。
みるみる張りつめ、先端が湿り気を帯びていく。
先を越されてなんだかうろたえ、お前、指の使い方やらしいな、と突っ込んだら、まだ何もしてないよ、と人を小馬鹿にしたような答えが返ってきた。そして俺の手を自分のに導く。それもダイレクトに下着の中まで。
熱く固いものが指の腹に触れ、改めてどきりとする。自分のに似てるけど微妙に違う。目が合った。挑むような上目遣い。少しうろたえて、ごまかすように今度はこっちから口づけた。


ヤるってのは、不思議なもんだと思う。性欲やら多少の情やらで、日常の感覚が見事に遠のいてく。昔初めて女と寝たときもそうだったが、汚ねぇ何それとか思ってた行為もその場になったらけっこう出来るもんだ。だからこのときも、身体と気分がほぐれてきたら男だ男だと思ってた最初の違和感もどこかへ薄れた。後はごく普通に俺も相手に尺やったり、ケツ舐めたり。それがすげぇ自然で、俺は相手が男でもokな人間らしいとこの年になって初めて知る。


程よい頃に、約束通り挿れさせてもらった。後ろから。
もともと女とアナルやるの好きだったから、ここまで来るともう普通に愉しめる。

フェイのはキツくて中が熱くてよかった。思い切り突くと、曖昧な母音みたいな声が上がり、キレイに筋肉の浮いた白い背中がのけぞりうねった。しばらくそれで責め立ててから、顔が見たくなってひっくり返し、体位を変えてヤった。

フェイは俺を見てる。苦しいか気持ちいいかのどっちかで顔が歪んで目を閉じることもあるが、気がつくとけっこう目が合う。俺を見てる。ふと思った。ひょっとして男はあまり目ェ閉じねぇのかな?それともこいつがそうなだけか。
だんだん呼吸が上がってきて、ちょっと焦点がずれたような眼差しが熱を帯びる。でもいつも俺の方が、見られてる。

「ここで何人くらい男知ってんだ。」
さほど言葉攻めをする方じゃないんだが、視線に負けまいとついそんなことを訊いた。
は、そんなのわかるわけ無いね、数えた事も無いよ、と相手は息も絶え絶えに、だけど嗤う。
今まで何人くらい殺したんだ、と訊かれてもこいつは同じように答えるだろう。そのくらい俺らには意味の無い問いだ。わかってる。

だが、
「誰とでもヤルだろ、お前。」
ヤツの左脚をつかんで自分の肩にかけながら、俺はなおも絡んでみる。
すると、ふう、と息を吐き出し、まるで鈍い痛みに耐えるような顔をして、そんなことないね、とフェイ。
俺はふと動きを緩める。刺激が弱まって一息ついたヤツは長い前髪をうるさそうに払い、今度は少しまともな声で答えた。
「…多少は気に入るような相手、選んでるね。」
そして、本当に誰とでもかまわず楽しく出来るのなら、そいつ幸せな奴よ、と言って目を閉じた。

何だかそれを聞いて訳も無く、目の前の小さな身体が憎らしくなった。よく考えれば当たり前の事をさも勿体ぶって講釈されたような気がしたからかもしれない。
とりあえず担ぎ上げた両の脚を折り曲げ尻を持ち上げるようにして上から体重をかけて、めちゃくちゃに突いてやった。チビでも頑丈とわかってるから容赦する気も起こらねえ。すぐに相手は声をあげて、面白いくらい乱れた。俺はどこか釈然としない気分のなまま、でもまるで何かに復讐を果たしたような気分になって、ざまーみろと思う。


と、俺にすがろうとでもするように、奴が腕をのばした。
ああ、キスしようとしてるんだと気づいて身を屈める。
ちょっと体勢苦しいけど、相手の熱い舌が自分の口腔に侵入する感覚に、今更のように没頭すること数十秒。


暖房が少し効きすぎで暑いぐらいなのも意外に心地いい。
顔と顔が離れたとき、ヤツがちょっと笑った。
勢いで、額に汗が浮いてるのを舐めた。塩辛い。向こうは瞳を伏せ、なおも微笑んでいる。


どうだ、好いか?
俺は訊いた。律動する俺の身体から汗が落ちて相手の頬にかかる。

かすれた声で、好い、と答えがあったから、誘われるように更に激しく攻めた。
あっ、と鋭く叫び顔をのけぞらせ、俺の身体の下でフェイが揺さぶられるがままになる。濡れた額に乱れた前髪が張り付くに任せ、苦悶に近い表情で眉根をぎゅっと寄せて喘ぎ、キスしたばかりの唇は潤んだ光を帯びてだらしなく半開きのままで、呼気とも叫びともつかない音を吐き出し続ける。
そしてだんだん高くかすれて行って、最後に音がひゅっ、と途切れ、痙攣。
ほどなくして腹に生暖かい迸りを感じ、俺も果てた。



ここで終われば、まるで女とするみたいにヤらしてもらった、それだけの話だ。

だが、その後があった。

数分ほどぼんやりと横たわっていた後、気づくと水を飲みに行ってたはずのフェイが足下に立ってる。
さっき息も絶え絶えだったくせにけろりとしてて、しかも、手にはいつからどこに隠していたのかわからない怪しげな小道具を持っていた。そして、起き上がろうとする俺を押しとどめて、次、ワタシの番ね、と言う。
おい、待てよ、と、抗う間もなく、恐くないね、すぐ済むよ、と喜々とした声を出すヤツに床に押し付けられあっという間に後ろ手縛られる。

「…おい、マジの拷問だけはなしだぜ。俺はそっちの趣味はねぇ。」
危機感が募って、一応念を押す。
「安心するね。ワタシそこまで無粋と違うよ。これ使て、もと気持ちよくなるね。」

目の前に転がったのは微妙な突起のついた毒々しい色のディルドーやらバイブ、ローターやらが数種類。しかもそのうち一つは…極太。俺は血の気が引くような感覚がした。
縄は力を入れれば簡単に切れる程度のもんだったから、つい、縛られた両手に力を込める。

だが、覗き込むフェイの顔を見た途端、急に、真剣に抵抗する気力を失った。

本当に、この上なく楽しそうだったからだ。

まだ乾ききらぬ汗が、頬や瞼に淫らな瑞々しさを添えていた。唇からちらりと覗く細い舌は赤く、いつもは涼しげで無表情ですらある切れ上がった黒い瞳も、昂る心を映し熱っぽい光を帯びている。
他人がこんなに嬉しそうにしてるのを初めて見たと思った。歓喜に輝く、とはこういう表情のことを言うんだろう。
そして相手は、いや、獲物は―――俺。



そう思った瞬間、自分でも驚くような事が起こった。
突然、恐怖と悦びがめちゃめちゃに入り交じった感情がわき上がり、いてもたってもいられなくなったんだ。


こんなこともあるんだな。
全身が総毛立ち、しびれるような熱い感覚が身体の中心を突き抜けて、気づくと俺は、性懲りも無くまた勃起していた。

張り詰めて痛いくらいに、きつく、堅く。
これから始まる長い夜の予感に、打ち震えながら――――




…つづきます。



【作者後記】
ただのエロなのにどうもエロくないし、長い&うp遅くなるしで何だか面目ないだけです。
それにしても変なフィンフェイになってしまいました。頭の中は随分おしゃべりなヘタレ気味フィンクスと、どうにもこうにもビッチ&女王様めいたフェイタン…とでもいうんでしょうか。しかも最後はリバ(といえるでしょう)。
これはただの責任逃れですが、どうしてこうなったかは自分でも今のところよくわかりません(汗
…なお、タイトルがそれでも何故か「初恋」である理由は一応次回でご説明ということで。
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