2.
……!
リリンの体温、
弾けた衝動。
少し驚いたけれど、不快ではない。
数知れぬ「学習」で慣れた感覚のはずなのに、何かが違うような、心地。
…熱。
ああ、そうだ。熱い。
融合へと向かう感じ。
互いの意志が互いに向けられる時の、熱さ。
それは僕が今、初めて知るものだ。
多いかぶさる彼にめがけて、手を伸ばす。既に汗ばんだ背中。
彼は眉根を寄せ、目をきつく閉じている。口は半開きのまま、泣くような声で時々呻き声が漏れている。
気持がいい。
手を伸ばし、僕の肩に押し付けられたままの右手を、捕まえた。
指を絡めて少し強引にその手を持ち上げ、キスすると、片手の支えを失った彼の動きが緩んだ。
だけど構わず、僕は彼の細い指を引いて、誘う。
――自らの首筋へと。
「…?」
一瞬、戸惑ったように、彼の瞳が見開かれた。
「カヲル、く…」
意図を測りかねて、所在無さげに彼が僕の名を呼ぶ。
答えずにそのまま、首の、喉の真上へと置かれた彼の右手に自らの両手を重ねる。
そして囁く。
(シンジくん、)
聞こえるか、聞こえないかくらいの低い声で。
(…好きだよ。)
その瞬間、まるで痛みに耐えるような顔をしたのは彼の方だった。
「あっ…」
渾身の力を込めるが如き一撃。
身体の中心を貫いた強い感覚と、
重なった手に体重が籠り、意識が一瞬遠のくような心地があった。
リリンに限りなく似た僕の身体だから、脆い。
喉の上の、彼の右手が暖かい。
こうしたのはただの気まぐれだった。
リリンがするように、流れに任せた。それだけだ。
(そうだ。)
体液が滞る。
(…その右手で、)
痺れるような…感じ。
(僕を、このまま――――)
このまま――――――?
その刹那、
薄れた意識が、溶ける体温が呼び起こす遠い記憶があった。
本当に、遥か彼方の映像。
あの日腕を流れた、赤い血液。
立っていた。
あれは誰?
(もう一人の僕。)
(今は居ない。)
(代わりはいくらでもいて、僕は、)
(…何人目だったのだろう?)
切り裂かれた左腕。
右手に、切り裂いた鋏。
(腕も千切れんばかりに、)
(赤い血が流れて、でも)
(陽の光を浴び、濡れた腕を宙に差し伸べて、)
(……笑っていた。)
白い闇が、ひろがる。
(―――――――――自…由?)
どうしようもなく、融合する感覚。
「…っ!!」
叫びにならない叫びを上げて、彼が大きくのけぞった。
瞬間、意識が戻る。
「ああ…あ、」
ほぼ同時に僕の身体を包む快楽の波。
そして弛緩。
彼は泣いていた。
どうしてかは知らない。
そして、僕も。
頬を伝う液体の感触。
初めての筈なのに何故か懐かしい、涙。
*
他愛もなく達して、一息ついた。
とたん、馬鹿みたいに泣けた。
そのまま彼の上に倒れ込んで、子供のように。
どうしてなのか自分でもわからなかった。
恐ろしく、混乱していた。
そしてひどく悲しかった。
―――――どうしてこんなに悲しいんだろう。
まるで何かを、悼んでいるみたいに。
まだ失ってもいない――――何かを。