I kept my mouth shut from the start

The Final Messenger

1.




「人間が、嫌いなのかい?」

と、彼が訊いた。

「別に………どうでもよかったんだと思う。
ただ、父さんは嫌いだった。」

どうして僕は、こんなことを話してしまうんだろう?
こんな知り合ったばかりの他人に。

心をほどいたのは薄やみのせいだけじゃない。
横たわって天井を見上げながら、本当にとりとめの無い話をした。

会話が途切れる。沈黙。
何げなく彼の方を見たら目が―――あって、彼が言った。



「僕は君に逢う為に、生まれて来たのかもしれない。」




それは、絶対的な瞬間。

白い腕が目の前に、伸びる。
そして誘う。

こっちへ、おいでよと。


何が起こるのかわからず、戸惑ったままの僕の頭に、髪に、指が触れた。そっと、柔らかく、だけど確実に捉える。

明確ではないまでも、僕は何かを理解した。
この先訪れる時間の意味――のようなものを。



君は……男だし、僕も…

うん、そうだね。

なら…


でも僕は、君を知りたいんだ。もう少し、深く。
そして君も、心の奥底では一次接触を――願っている。
違うかい?


すうっと、胸にしみいるように響くその言葉に、身体の奥から熱が湧き上がるような心地につつまれる。
これは、何。
心はまだ、ひどく戸惑いおののいているというのに。


言葉もなく、動けないままでいる僕の傍ら、先に起き上がったのは、彼だった。
そのまま、足音すら殆どたてず寝台から下り、僕の膝元へと、かがみ込んでそっと身を乗り出す。

「シンジくん。」

闇に慣れた瞳の映す視界に、彼の輪郭。銀髪が、白い肌が、夜の青い空気の中にぼうっと浮かび上がるのを熱で浮かされたような心地で、見る。




でも、彼の両手が僕の肩を抱きかかえるようにつかんだとき、身体が震えた。まるで自分のものではなくなったみたいに。

「恐いのかい?」

答えられない。

「大丈夫だよ。」

肩におかれた白い手、長い指、そっと袖口から二の腕、肘へと下りていく。
たったそれだけなのに、彼の手の触れた場所から痺れるような感覚が身体に広がり、声が詰まった。
体温、絡み付く。

「な、何をする…の?」

やっとの思いで、悲鳴を上げるようにかすれた声で、叫ぶ。

「それは君次第だよ。君には拒否する権利も、受け入れる権利も、ある。」

彼らしい、流れるような一続きの言葉が、僕の動揺しきった頭を素通りしていく。

「………」

「でも、」

「あ、」

「もう答えは、出ているね?」

身体の中心に柔らかく触れられ、いとも他愛無く悲鳴のような、声を漏らした。

「あ、あ、でも、待っ…!」

漠然とした知識しかなかったけど、のしかかる彼の体重に鋭い危機感を覚えて叫ぶ。

「どうして?」

「…僕は女の子じゃ…ない。い、いやだ…」

日常の感覚が遠く霞むほどの快楽の中にも拭えない恐怖があった。すぐに口にするのをためらったのは…多分、嫌われたくなかったからだ。



そしたら、何の躊躇いもなく彼は言った。

「ならば、君が僕にすればいい。」

「え?…する…?」

答える代わりに、彼は僕を抱き起こした。起き上がると、覗き込むような彼と目があう。

震えが、止まった。

「どちらでも、僕には同じことだから。」

清々しいほどの微笑みが端正な顔に浮かび、切れ長の瞳が挑むように揺れた。
ああ、だめだ、もう何も考えられない。

そのまま二人どちらからともなく、キスをした。









まるで交代するように床の上に寝転がったカヲルは、シンジに優しく微笑み、少し遠いところを見るような目をした。
ここに乗って、と促されるままにシンジは彼の上にまたがる。
彼に助けられ、シンジは戸惑いながらも、動く。


実のところ、何故こうしなければいけないのかシンジにはわからない。だが、カヲルの指に煽られ、漲り、苦しいまでに張り詰めている。その痛いくらいの切望に耐えかねて考える余裕などとうに失っていた。
だから、ただカヲルが導くに委ね任せている。



自らの一部をカヲルへと深く埋めたとき、シンジの唇から小さな叫びが漏れた。
シンジ君、と苦しい息でカヲルが見上げて名を呼ぶ。
答えは、言葉にならない。


甘い母音の、でもどこか獣じみた声が自らの喉の奥から響いたのを、シンジはまるで遠い出来事のように聞いた。

未知の快楽。

次の瞬間、何かに憑かれたように腰を動かしていた。
カヲルの反応を見る余裕もなかった。