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  初夏の午後  

4.

そのままどのくらいそうしていたのだろう。さほどの時間がたったわけではないけど、腫れぼったいまぶたと乾き始めた頬の感覚に、アスカはひどくきまりの悪い思いを憶える。
「…ごめん。もう大丈夫、ありがと。」
カヲルからそっと身を離した。薄闇の中で、彼がまた微笑んだような気配がした。

涙を悟られてしまった照れくささに目を合わせるのがイヤで、ベットの隅のデジタル時計を見た。時間は刻々と経って、あと一時間もなかった。

「もう時間がないわね。続きを…やる?」
つとめて、乾いた調子で言った。
「もちろん、無理にとは言わないけれど…。」
多くをさらけ出してしまった今、色気などかまっていられなかった。何かがどうでも良くなってしまったのを感じた。
返事の代わりに、カヲルは彼女の頬にキスした。ぬくもりを感じて、溜息が出る。あ、感覚がある、とアスカはぼんやりとした安堵を覚える。

吐息が、無言になった二人の口から漏れる。彼の指がアスカの中心へと降りていったとき、思わずアスカは声をあげた。
さっきより大分調子はいいみたいだった。少なくとも、予期しなかった涙の後で考える気力を失っていた分だけ、目の前の行為に没頭できるようになっていた。

ほどほどに彼女の身体をほぐした後、よどみない手つきでさっさとコンドームもつけて、彼は彼女に挿入した。
「う…。」
ちょっと痛い、とアスカは思った。身体は馴らされてたはずなのだけど、自分の中にいっぱいに何かが詰め込まれ、急に窮屈になったように感じた。単純な話、シンジのとはサイズが違うからだと気づく。

「あ」
カヲルはゆっくり動いたが、それだけで声が出てしまう。とにかく、刺激が強い。でも、じゃあすごく気持ちがいいのかといわれると微妙で、強すぎるくらいの快感が不快と別の感覚との狭間に時々訪れるような、心許ない感じだった。

苦しさと快楽とに溺れながらも声を上げるのは気持ちがいい。そんな自分が可笑しくなって、気がつくとアスカは泣くように笑っていた。いや、笑うように泣いていたのかもしれない。カヲルが時々思い出したようにキスをしてくるのを受け止めて舌を絡め、もがくようにのばした腕がしがみついたのは汗ばむ背中。


しばらく動いた後、非常に適切なタイミングでカヲルは達した。シャワーだの後かたづけだのの時間を考えると、おそろしいくらいの適切さだった。アスカはといえば結局イかなかったが、何か使命を遂行したような一定の満足感を得た。

「大丈夫?疲れた?」
「まあね。でも、多分あんたほどじゃないわ。」
「はは…運動量、違うからね。」

ベッドに沈み込んだまま、先にシャワー浴びておいでよ、とカヲルはアスカに促した。
シャワーを浴びて、帰ってくると、カヲルはウトウトとまどろんでいたが、先ほど散らかしたティッシュだの、コンドームだのはいつの間にかきちんとゴミ箱に捨てられていた。


夕闇が迫るころ、二人はホテルをあとにした。アスカはホテル代を払うと言ったが、カヲルが譲らなかったので結局割り勘にした。


外に出ると7時を回っており、街は夜に向けて更に活気づこうとしていた。既に一仕事終えた気分の二人は、周りとちょっと別の次元にずれてしまっているような、心地よい疲労に浸りながら人混みの中を歩いた。

「食事でもしてこうか。ここから遠くないところに、美味しい店を知ってるんだ。」
「そうね。」
「おなか減ったでしょう?」
「まあね。」
「僕は減ったよ〜。」
おどけた声で、カヲル。
「そりゃ…そうでしょうね。」

アスカもつられて笑った。その後で、シンジのことで悩み始めて以来、こんな風に笑っていなかったことに気づいた。

美味しい店というから一体何かと期待していったら、カヲルが連れて行ったのは何の変哲もない定食屋で、アスカは拍子抜けした。
「ここのトンカツ定食が美味しいんだよ。」
カヲルは屈託がない。
「…よくこんな店知ってるわね。まあ、日本に長くないあんたには珍しいのかも知れないけど…」
ぶつぶついいながらも、気持ちがゆるんでいく。むしろ、ここで妙に雰囲気のいい店につれてこられたらかえってしらけたかも知れない。

「ここの素晴らしいところは、なんと中部地方名物の味噌カツ定食があることさ。東京の小さな店でこれは得難いね。そう思わないかい?惣流さん。」
早速運ばれてきた定食を満足げにながめながらカヲルが言う。

「へえ、味噌カツってあたし、そういえば食べたこと無いわ。…ところで、別にアスカでいいわよ。」
別に馴れあいたいってわけじゃないけど、ヤっといて名字ってのも、なんかね、と思ったのだった。

「僕もカヲルでいいよ。」
微笑む彼と目が合った。

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