je pense a toi, ma cherie. mais j'ai couche avec lui.

紅い花

3.

あの娘とほんの短い間つきあってたころ、キルアのことをよく思い出した。
ずっと一緒に旅をしてきて、不意に別れて、自分の一部が欠けたような気がしてたから。まるで、それまでの自分で無くなったみたいだった。
でも、それでも、あの娘といて、生まれ育った島で暮らして幸せだった。


さっきシャワー室で、俺はキルアが受け入れてくれるってわかってた。キルアが俺をどういう目で見続けているか知ってたからだ。それで、仕掛けた。
自分が辛くてたまらなかったから、他人の好意を利用したんだ。

キルアじゃなくても誰でも良かったかもしれない。でも、キルアだから、そこまで自分の勝手な感情をぶつける気になったのかもしれない。

よくわからないけど、どっちも本当な気がする。

多分、俺は失ったあの子の身代わりが今すぐにでも欲しくて、キルアだけがそれを埋めてくれると知っていた。
でもそれは、キルアが好きで、一緒に居たくて何かをするのとはちょっと違う。キルア自身を求めるのとは、どうしても、違う。

だから、ごめんと言った。
確実に、最低なことをしているという自覚があったから。

キルアはそういう言い方するな、っていやがった。何も考えるなっていって、そのまま受け入れようとしてた。
だけど視線を合わせずにそっぽを向いた横顔が、思い切り無理してる感じに見えて、胸が痛んだ。



それでも、責められるのを待つ事が出来るならば、まだいい。
手ひどく裏切ったのに罵倒される可能性もないのは、尚辛い。

目を閉じると浮かぶのは、キルアじゃなくてあの子の笑顔。
もういないひと。

最後に見たのは、棺の中で花輪に囲まれ、笑うように安らかな表情。
冷たい土の下で穏やかに朽ちていくあの子はもう、何も言ってくれない。
紅い花だけが鮮やかにその上で咲いてて。


全て、わかっていたこと。
それなのに、やった。
しかもキルアの優しさにつけ込んで、余計な悔恨を増やした。


ねえ、わたしのこと忘れないでね。

生きていた時、あの子がよく言ってた。

どこにいっても、覚えていてね。

なんでそんな悲しいこというの、って思ってたけど、どこかに行ってしまったのは君の方で、
その元凶を作ったのは、この俺。

忘れる事なんて出来るわけないし、今でも君の事ずっと考え続けてる。

だけどさっき、友達と寝ました。 それもたくさん、人を殺した後で。


お葬式の後あの子の親に、一度だけ会った。どんな顔をすればいいのかわからなくて、うつむいて、ただごめんなさいとつぶやいたら、あなたのせいじゃないと言われた。でも、今俺に会いたくはないという気持ちも伝わってきた。
それは当然のことで、俺をみると、「この子とつきあってなければ娘は」って思い出して、無念な気持ちやら憎しみやら、そう感じてしまう一抹の後ろめたさやら、色々な気持ちが一時に押し寄せて、辛すぎてやりきれないんだろう。
そのことがよくわかるから、俺もたまらなくなる。

…いっそ、あの子が本当に直接俺のせいで死んだのならば。
たとえば訴訟なんかになって、賠償金払え、ハンター資格剥奪、監獄行きとかいわれるならば、その方が良かったとすら思えてくるくらい。


ううん、もっとそれよりも、誰か、あの子の事を俺と同じかそれ以上に好きだった人、例えば家族とか、友達とかが、今ここで俺を、殺してくれるならば。
本気でそれもいいような気がする。

そんなことを願うには多分、俺は下手に強すぎるのだけど。




日が暮れる。
四角い部屋の中で一日が終わる。
太陽が死んで取り残される。

明日は早いから眠ろう、とキルアが言った。
それ以外に会話らしい会話をしたかどうか思い出せない。



〈予定に反して、もうちょっとだけ続きます…〉
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