il souriait sans rien dire.

紅い花

1.

シャワーを浴びる。乾いてこびりついた血が浮き上がって、流れていくのをぼんやり見る。

「仕事」は始まってしまうとあっけなくて、昼前にはカタがついた。所詮、不意打ちのような真似をすることでのみ優位に立てていたやつらだ。正面対決なら、俺たちの方に分が有った。
二人で、何人殺したかな。投降してきたやつはともかく、攻撃してきたヤツはだいぶ殺ってしまった。半端に強くて、手加減が難しかったからだ。

さっき地元の警察が来て、死体処理と生存者の逮捕および病院搬送を行っていた。ハンター協会の方から連絡がいってたから、全てスムーズだった。ついでに返り血まみれの俺たちを、手近なホテルまで運んで事情も説明してくれて、助かったくらいだ。

そして今、こざっぱりした部屋でシャワーを浴びてる。
ゴンは、キルア先に使っていいよ、と言ったきり黙って、ぼんやりと窓辺にもたれて外を見てた。
そういえば、警察の護送車に揺られここまでくる間も、俺たちはほとんど何も喋らなかった。



物思いに耽っていると、背後でがたりと音がして、磨りガラスの戸を開けてゴンが入ってきた。

「…もうすぐ終わ」
るから、待てよ、と言おうとして言葉を忘れる。シャワー室は狭い。接近されて、思わず後ずさる。向こうは上半身裸だけど、パンツはいたままだ。
体中に血やら泥やらがこびりついてるゴンの顔やら胸やらに、俺の浴びてる湯のしぶきが飛んで、薄赤い流れを作る。

ゴンは静かに笑っていた。顔が近づいて、湯をまともにかぶって、額や頬を伝って滴り落ちる。まるで泣いているみたいに。

先に目を閉じたのは俺だった。唇に柔らかい感触。鉄錆の味。言葉も無く抱き合い、最初は少しぎこちなく、次第に熱を帯びて、止まらなくなる。貪るようにキスした。

向こうが下着をひっぱって脱ごうとしたので、手伝う。指に力が入らなくて、もたついたりしながら。
ゴンのを舐めようとしたら、向こうが手を引っ張って、続きは向こうでしよう、と言う。つい昨日までやってたことをまたしようとでもいうような自然さだった。数ヶ月離れていた事とか、その間に彼女が出来て、こないだ自分のせいで死んだばかりだとか、そういう諸々のことをまるで超越してるみたいな感じで、対峙するこっちも現実感が危うくなって目眩がした。

最低限身体を拭いてタオルを渡したとき、一瞬、ひどく後ろめたい感覚が身体を走り抜けた。
だけど、なだれ込むように柔らかいベットに二人転がった瞬間、あっけなく思考が停止してあとは夢中。
まるで何かから逃れるようなひたむきさで、ゴンが俺のをくわえてきて、俺がうめく。手を握ってきた指を舐めて、自分の尻に導く。じらすように触られ、親指の頭半分くらい浅く入れては、何度目かに深くさし、みたいなことまでしてきた。こいつ、俺の知らない間に色々覚えやがったとぼんやり思いながらも、狂って声が出る。
しっ、となりに聞こえるよ、とかいう向こうも息が荒い。

ゆっくり、それが入ってきて、息をのむ。久しぶりのはずなのに、嫌になるくらい身体が馴染んでる。つながったそこから熱く溶けていくみたいな、恐ろしいほどの快感。
壁が薄いのがわかってて声を殺したら、呼吸困難になった。そんな息も絶え絶えの俺を見て興奮したのか、相手は余計に攻撃的になる。

--- 興奮?

ついに耐えきれずに声がでた。でも俺の頭はまだ思考していて、そのことに我ながら少し驚く。

--- いや、違うな。

それだけだったら、どんなに楽だろう。ただ、動物的な衝動に突き動かされているだけならば。

ゴンと一瞬目が合う。
ああ、やはり。

朦朧とした意識の中でも、わかる。
泣けない代わりにセックスしてるって、顔。

見てられなくて、目をつぶり、ごまかすように口づけた。
絡み合う舌と、身体の刺激と、閉じたまぶたをオレンジに染める光。
色々な気持ちが入り乱れて、涙が溢れた。


ゴンが俺の名前を呼び、俺は言語にならない声をあげる。
気持ちがいいのか、辛いのか、それとも単に、戦闘の後の興奮で肉体が過敏になっているだけなのか。
こんなになるのは初めてで、自分でも、もう、わけがわからない。
全てが白熱した混乱の中にあった。なぎ倒されるような苦痛と快楽が同時に押し寄せる。


次の瞬間、思い切り深くゴンのが突き刺さり、俺の中で、果てた。


Copyright (c) 2005 All rights reserved.