tu sais que je t'aimais quand meme ?

紅い花


0.

ゴンの彼女が死んだ。
あいつが関わってた事件に巻き込まれて、あっけなく。
幼なじみの女の子。俺も何度かくじら島であった事がある、あの子。
つきあっていた事さえ知らなかった。ゴンとは半年前にケンカ別れして、俺はヨークシン周辺でギャンブルその他(見事に金すった)、やつはくじら島に里帰りと別々にすごしてる間のことだったから。

携帯が突然鳴って、手伝ってほしい事があるんだ、と突然いわれた。当然俺は何もしんないから、ケンカのまま意地はって口聞かないでいた相手から急に電話来て、照れ臭くて、何話していいかわからなくて、はぁ?何?、とかめんどくさそうな口で答えた。そしたら、昨日、ノウコのお葬式だったんだ、と答えが返ってきて絶句。今までのゴンから聞いた事も無いような、低い、感情を押し殺したような声だった。かろうじて、そうか、と短く答えた。ついでに、その子とつきあい初めたばかりだったなんて話もされたわけだけど、こっちの方は最初の声のトーンで何となくわかってて、もう驚かなかった。

しかし、呆然とする暇もなかった。今から半日でくじら島まできてくれとか言ってる。あり得ねえ。

そーいえば、ゴンの関わってる仕事はすげえ厄介だった。今のところヤツの仕事は懸賞首ハンター系のものが多くて、偽ハンターライセンス偽造組織の親玉を追いかけてる。それはいいが、その組織の支部の一つに超凶悪なのがあって、ハンターの関係者――家族やら友人やら――の中で弱そうな一般人を狙って誘拐し、人質の命と引き換えにハンターライセンスを要求するのだそーだ。しかも、一度目を付けられたらもう最後、関係者全員が狙われることになるらしい。最近流行りだした新手の犯罪で、頻繁にアジトを変えられて捕まらない上に、やつらの中にも相当な使い手がいるもんだから、始末に負えなかった。いつかの蟻のヤバさに比べたらかわいいのかもしんないけど、一応無差別で正攻法だったやつらとちがって、弱いところを狙い撃ちに攻めてくる敵ってのは別の辛さが有る。
そして恐ろしいのは、そのたった一枚のカードが、一人の個人の一族郎党狙い撃ちという時間も手間もかかることをやっても、まだおつりがくるような莫大な利益を運んでくるという事実だった。

* *

運良くギリギリセーフでチケットを押さえ、その日のうちに出発出来た。
夏の日差しがまぶしくて、久しぶりに会ったゴンは少し日に焼けてた。もっと取り乱してるかと思ったら、そんなこともなくて、ただ、静かだった。

二人並んで歩くのも何だか久しぶりだった。青い海が見える道沿いには、紅い、本当に鮮やかな紅の花が咲き乱れていて、潮風の匂いがした。犯罪とか死なんてものにまるで似合わない風景。
途中、墓地の側も通った。同じ紅色の花が咲いている。どう話を切り出すべきか迷って黙っていたら、ゴンがうつむき加減に言葉を選びながら、淡々と語りだした。

急に呼び出してごめん。俺のミスで迷惑かけて…。

いーよ、気にすんな。

…これでも、一応気をつけてたんだけどね。
知らないうちにノウコが俺のハンター証、携帯のカメラで撮っててさ。その携帯でいろんなサイトに接続したりするだろ。その間に、ハッキングされてさ。…それで、身元が割れちゃったんだ。

バカップルだ、なんて思ったけど、死んでも言えなかった。痛すぎて、辛すぎる。
なんでそんなモンを写真に撮りたがったのかはわからないけど、多分、自分の彼氏に関係する情報ならなんでもよくて、集めたかったんだろう。コレクター精神。俺の兄貴みたいなもんだ。表現悪いけど。
最近は携帯だって立派なパソコンだから、ウィルスは出回るし、ハッキングだって可能だ。ましてや民間人の携帯なんて、ガラス張りの倉庫みたいなもの。ただ、フツーは利用価値のない情報ばかりだから放っておくってだけで。
彼女の携帯をのぞいたヤツも、好奇心か単なる偶然だろう。そこにハンター証の画像を見つけて、おや、と思ってどこぞに情報を垂れ流して、それがめぐりめぐって例の組織に行き渡り、運悪く携帯の持ち主の住所氏名も割れちゃったんだろうな。そう考えると、すげえついてない。

手伝ってほしい事ってのは、要はお礼参りだった。
けがの功名とでも言うのか、皮肉な事に、こんな小さな島で死者が出たおかげで、敵の逃走経路が明確になり、とりあえずは直接殺害に関わったやつらのアジトが割り出せたらしい。
「一応、会長にも連絡をとった。…これまでの犠牲者の数と相手の強さ、任務の特殊性を考慮した上で、殲滅しても罪には問われないってことになったみたい。」
殲滅許可…。わかるけど、すごい話だ。そもそも、だから俺を呼んだのか?暗殺の仕事やってたころのことをぼんやりと思い出した。

そしたら、ゴンのやつ、もともとはキルアの仕事じゃないから、俺がキルアを雇うってことにする、もちろん自分が受け取るはずの報酬は全額そっちにわたすなんて言い出した。やめろバカ、って拒否したけど、向こうが全然折れなくて、結局半額山分けで決着した。

アジトは島から遠くなかった。決行は明日、夜明け前を狙う。

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