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dis-moi que tu m'aimes, putain.

禁じ手

2.

よく、夢をみた。

部屋に飾ってる。たくさんの――

あれは誰。
俺の母親。

生きていると変わっていってしまうでしょ。
誰かに盗られるかもしれないでしょ。
だから止めるのよ、時間を。

そしたらもう――――私のもの。

小動物とか、誰かの身体の部品とか。
瓶に詰めて、部屋に飾るのは、愛の結晶。
切ないネクロフィリア。
(回想と同時に襲ってくる吐き気。)

殺したいのと愛しいのと、
区別なんてつかないような家に俺は生まれて育った。

強者に服従すること。
弱者を支配し所有すること。

あの女にはそのどちらかしか出来なかった。


狂ってる。
でも俺が似てるのはひょっとして――――




うなされて目が覚める。
額に冷や汗。
隣にゴンが寝て、全然関係ない夢を見てる。
無防備な横顔。


愛、愛って結局何。
愛は等しく全ての者へ、無償に与えられるのだと人はいう。

そしてタダより恐ろしい物はない。
無償ってことは、保障されないってことだ。
理由も無く、ただ信じなきゃならないってことだ。

(そ、「信じる者は救われる」ってやつ。)


俺の事、好き?
そっか。

で、お前は与える立場の、その高みから、俺に無償のモノを施すと言った。100%の善意で。
その瞬間俺は、乞食になった。
お前は施す者、俺は乞う者。
俺は愛を与える事は出来なくて、ただ執着だけが有り、結果、支払えるものは何もないから、ただ信じて待つしか無かった。

だけどそんなのがいつまでも続くわけなくて。

先に均衡を破ったのは確かに俺だった。
施しを大人しく待ってなんていられなくて、
次から次へとゴンを試すような事ばかりして、傷つけた。
俺の事どう思ってる?これでもまだ、俺の事許せる?好き?じゃあ、これならどう?
タダなんて嘘だろ、早く本音を吐けよ、交換条件突きつけてみろよ、と。


思い出せば滑稽だ。乞食でありながら同時に俺は暴君で、ゴンを振り回し続けた。

家をしょっちゅう飛び出ては何日も帰らなかった。何人もの男や女と寝た。
(だけど空しい。
「また食っちゃったよ」なんて独り言いいながら、実際には俺の方がこの身を少しずつ食ませているような気になった。)

ある日ついに大喧嘩。きっかけは些細なことで、多分もう何でもよかった。
多分、俺がさぼりにさぼってた掃除の順番とか、そんなことだ。
どっちから仕掛けたかも覚えてない。多分、もう状況がこじれにこじれてて、お互い火種が欲しかっただけ。
手はあげなかった。(そんなことしたら家が壊れる。)
だからよけいに致命的だったのかもしれない。
いくつかのやり取りがあって、口では所詮俺に叶わないゴンが追いつめられて、ついに叫んだ。

どうしてこんな風に俺を試すんだよ、と。

一瞬の戸惑いを隠して、急に何言ってんの、わけわかんね、と俺。

息をのむ音がした。まっすぐ俺を射るように見た黒い瞳が揺れ、俺はふと何の脈絡もなく思い出した。
ああそういえば、こいつ、友達を試すようなことするのきらいって言ってたな。

でも俺はもう「友達」じゃなくて、それはゴンもわかってる。

だからなのか、反論は返ってこなくて、熱いバトルもそこで終わり。
終わりにしたのは俺じゃない。ゴンだ。

無言で俺をじっと見据え、無言のまま涙をこぼした。

そして、何も言わず部屋を出て行った。



続く
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