poupee, tu ne sais jamais combien nous sommes differents.

供物

1.


フェイタンがその絵と出会ったのは、蜘蛛=幻影旅団として生き始めた頃のことだ。偶然街で拾った雑誌で、眼帯をした奇妙な少女の絵をみた。それが最初だったのを覚えている。
何故か心惹かれ捨てられずそのままアジトに持ち帰って、拷問の合間の暇つぶしに見てた。すると、クロロが後ろから覗き込んで言った。トレヴァー・ブラウン、好きなのか?

絵の少女は肩より少し手前で切りそろえた黒い髪に切れ長の黒い目をしていた。その肌の色と民族的な顔立ちの特徴がほんの少しフェイタン自身に似ていたかもしれないが、本人にその認識は無かった。



カルト・ゾルディックが旅団に入ってきたとき、フェイタンはさほど関心が無かった。あの頃、年は十を超えたくらいだったのだろうか。ごく客観的にみて、美しい子供だった。うなじが見えるくらいの長さにそろえた絹糸のような黒髪と睫毛の濃い切り上がった瞳が印象的だった。絵から抜け出たような顔をしている、と一目見たときに思ったが、そのあとすぐそんなことは忘れた。

むしろどうしても気になったのはその実力の程だ。だがそれも、クラピカにかけられた団長への念を外すために有用な人材だということで、ノブナガやらマチが入団を提案し、シャルナーク、フランクリンやらボノレノフあたりがすぐにそれに同意したので、自分が意見を付け加えることは無いという気分がしていた。
カルトが、少なくとも戦闘力においては自己を過大評価しているだけの子供だということは団員皆が見抜いていたことだった。だが、子供が当初予期されていたよりもやすやすと除念師を見つけたあたりから、旅団に残っていくことは当然の物として受け入れられるようになった。

それでもさほど、取り立てて興味は無かった。自分と近いフィンクスが比較的カルトの相手をし、時折まるで兄か何かのように親しげな口をきいているのの側に居て、適当な相づちを打っていた記憶があるだけだ。



こうしてカルトが居座って、2、3年の月日は流れたのだろうか。いや、もっとかもしれないし、逆にそれほど時は経っていなかったのかもしれない。そもそも、孤児で自分の年齢も定かでないフェイタンにとって、仕事に関係のない事項とその時間的経緯への関心はひどく薄く記憶も曖昧なものだった。

だがある日偶然、さほど近しい距離に居たとはいえないその子供との接点が、生じることになる。
フィンクスに言われてフェイタンを個室まで呼びにきたカルトが、ソファーに上に無造作に置かれていた画集にふと気づき、懐かしいものでも見たような声をあげたのだ。

「あ、トレヴァー・ブラウン。」
「知てるのか。」
「うん。うちに画集があるんだ。母さまがお好きで、僕にもよく見せてくれた。」

異質な世界を突きつけられたように感じて、フェイタンは一瞬言葉が出なかった。そのあとすぐに今更そんな反応をする自分を馬鹿げていると思った。目の前に居るのは大きなお城のような家で家族と育った子供なのだ。盗品売買が芸術との出会いだった自分と全然違うのは当然の事だ。何を驚くことがあろう。
だがそれでも、羨望とも感慨ともつかぬ奇妙な気持がわきあがるのを止められなかった。襲撃した大富豪の家の倉庫で見たタブローだとか、書斎で拾った画集だとか、そういう偶然の積み重ねを必要としない環境に育った子供もいるのだ。そのことを改めて思い知らされた気がしたからだ。

以後、絵を見せて、とカルトは時々フェイタンの部屋を訪れるようになった。それでも何か取り立てて変わったことがあったわけではない。たいていの場合カルトは黙って楽しげに絵を見ていた。希に子供ながらなかなか穿ったことを口にして会話になることもあったが、長居はしなかった。いつも小一時間と経たぬうちに、またね、といってきびすも返さずに部屋を出て行くのだった。



だがある日、まるで予期せぬ事故のようにそれは生じた。森の中だった。
旅団としての仕事が終わり、仲間達はそれぞれ散って居なかった。
フェイタンは森の中、一人歩いて居る子供を見た。




続く