(7) - エピローグ
どのくらい経ったのか。
気がつくと、シンジは朝焼けの公園のベンチに横たわっていて、目をあけると心配げに見下ろすカヲルの顔があった。
カヲルは既にすっかり着替えていて、何事もなかったように少年に戻っている。睡眠不足で少し色つやの悪い顔からはすっかりメイクが落とされている。
僕、良く覚えていないやとシンジは言った。起きあがると少し世界がぐらぐらした。
酔っぱらって眠っていたよ、でもハコからここまでは何とか自力で歩いてきたよ、そしてまたここで眠ってしまったんだ、とカヲルは答えた。
そう…ほんとうにぜんぜん覚えてないや。
二人は笑った。
帰ろうか、シンジ君。
え…。
寮にだよ。もう始発があるはずだ。
ああ…寮に、そうだ、そうだよね…。
二人並んで歩いた。カヲルがときおり、朝焼けがきれいだとか、あそこの角にある蕎麦屋がおいしいとかいった話をして、シンジは適当に相づちを打った。
寮の男子棟に入ると、二人とも無言になった。
まだ建物全体が眠りの中にいて、沈黙が不可避であることは、シンジにとってむしろ心地よかった。
二階の階段を上がって、じゃあねとすこしぶっきらぼうに言ってすぐ突き当たりにある自分の部屋のドアをあけようとした。
そのときカヲルの視線を背中に感じたような気がして緊張した。
振り向くと目があい、カヲルが疲れた顔で、だが屈託無く微笑んで、ゆっくりおやすみよと言った。
END
【作者後記】
あ、これだけ???
と思われた方も多いと思います(汗)。
すいまっせん。今回はキスどまりです。
どうも、カヲル行動力低しです。
どうも、このHPのカヲル、微妙に受け気質でもありますからね…。
なお、このエピソードの前の話があります。当然ながら。
要は、カヲアスです。
そっちも既に書き上がってるのですが、なにぶん昔に書いたもんで、この話よりも文体を書き改めるのが大変です。
この話もなんせ、今から2年くらいまえに書いたヤツなんで、今からみると…な部分が色々。
なお、本文中に大麻に関する記述がありますが、2005年の段階で、一般的な嗜好のための大麻の吸引等は、日本では大麻等取締法により禁止されています。一応、念のためおことわりしておきます。〔※この点について、2008/11/18に補足の文章を追加しました。文末をご覧下さい。〕
しかし、本作品及び二次創作のもとになった世界は少なくとも2005年を舞台にしてはいないため、この(二次)作品世界におけるカヲル達が違法行為をしているとは限りません。ひょっとすると、現在の西洋諸国がそうであるように、非厳罰化(商業目的でない大麻の個人使用は罰しない、など)されているかもしれません。
なので、カヲルが「だめだよー、シンジくんにそんなのすすめちゃ」といっているのはきっと、「シンジくんはまだ子供なんだから」の意味ってことかと(笑
とまあ、言い訳が長くなりましたが、とりあえずそんなところで。
拙い作品をお読みいただいた皆様、どうもありがとうございましたm(_)m。
※追記(2008/11/18)
二次創作とは直接関係のない話題ですが、大麻(マリファナ)についてこの作品で言及しているため、補足しておきます。
近年、大学生の大麻使用や相撲力士の大麻吸引問題を受け、大麻に関する議論が日本世論で盛り上がりを見せています。
しかし、大変率直なところ、残念ながら新聞、テレビなど主要メディアの中には大麻の性質について充分な科学的理解に基づかない報道が見られるのも事実です。
とりわけ次の二つの点について誤解が目立ちます。
・「大麻は覚醒剤など他の恐ろしいドラッグの入り口となる」
→社会科学的調査と、オランダにおける1970年代からの取り組みを見る限りこれは嘘です。大麻自体にそのような性質があるのではなく、大麻が非合法な形で覚醒剤と一緒に扱われていたり、吸う人が社会から疎外されてしまうなど、社会的な要因がそのような現象を助長しています。事実、規制の緩い国では大麻だけを楽しみ、何の問題もなく日常生活を送っている人の方が圧倒的多数です。
・「大麻は健康に害がある」
→様々な医学的研究がありますが、大麻固有の害についてはまだ科学的にはっきりした答えが出ていません。
例えば大麻を吸引するときは煙草の葉を混ぜて紙で巻き、基本的にフィルター無しで吸うことが多いのですが、煙草だけよりも大麻が混ざっているときの方が肺ガンの率は上がるといったりいわなかったり、とか。要は、煙草も既に身体に悪いんで、どのくらいが大麻のせいなのか調べるのは難しいわけで。
精神への影響についても、一日に十本以上吸う層の場合は後に精神障害を患う率も高いようですが、一方で、一日にせいぜい一、二本嗜む程度だと殆ど影響は見られない。でもって、そもそも一日に大麻を十本吸いたくなるような人というのは、別に大麻のせいじゃなくて他に別の社会的要因がある可能性も高いので、やはり大麻のせいかどうかわからない(つまり大麻は原因ではなく結果である可能性がある)…などなど。
大麻についての国内外における詳しい状況は、例えばこのホームページで比較的よく把握されています。
また、つい最近こんな本が出版されました。きちんとした社会学的調査に基づく書です。
佐藤哲彦『ドラッグの社会学―向精神物質をめぐる作法と社会秩序』世界思想社教学社 (2008/10)
一般向けに書かれているので読みやすく、大麻についても詳しく扱われています。ご関心のある方は一読をお勧めします。
以上、ただの二次創作ではありますが、本作品における薬物使用の描写が、それなりの理解と情報収集に基づき、一定の考えのもとでなされた記述であることをご理解頂ければ幸いです。
また、蛇足ながら付け加えれば、正直なところ、この作品における2018年(カヲル達は17-18歳の設定なので)の日本と大麻の描写には、未来の日本社会に対する私の願望が反映されています。
佐藤哲彦氏の書物にもあるとおり、大麻はある種のライフスタイルを象徴するドラッグで、例えば、情念と性における自由のイメージなどと重なります(事実、大麻非合法化の先駆けとなったアメリカでは大麻使用者の性的放埒さを非難する言説も見られたそうです)。そして現在大麻が合法化されているオランダはやはり様々な点で日本よりは「自由」です。私はそのような社会の雰囲気、理念に惹かれています。やおいはある種の夢の反映なわけですが、私はそこに未来への願望も映しこんだというわけです。