......tu n'es qu'un pantin obscur, putain

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2.

父のものでなくなった俺を得たのはキルだけではなかった。
母親も俺を求めるようになった。
そう頻繁にではないが、母の寝室を訪れた。

母というより、流星街から連れてきた、女。
この世から消滅しても誰も騒がない存在。
その極上の眼と女であることだけを買われて、この家に迎えられた。

世の中は不安定さを増してきて、俺達の仕事も増えるばかり。
効率よく任務を遂行するのに、一族の結束は重要。
外でさして大きな役割を果たせるわけでもない母だったが、留守を守り、使用人を統括する役目を負う彼女の精神の安定は軽視できない。
少なくとも、当面のところは。

それなのに父が母を顧みないでいることは、一族を率い君臨する者に与えられた特権のようなもので、しかも蹂躙されればされるほど、母は父に盲目的に仕えた。これは王者ゆえに成せる技。

いやむしろ、王者であるために必要な振る舞いだったのかもしれない。
奴隷が主人を必要とするように、主人は奴隷を必要とするのだから。
そして、打ち据えられた奴隷は更なる奴隷を求めるのだ。

(例えば、殴られ、犯されるほどに俺は父を崇拝し、
大きくなって弟を抱くようになった。
そして弟は、俺の余韻が残る体をひきずりながら、
森で小動物を殺していた。
美しい連鎖。)

母の感情のはけ口は息子達だった。愛と束縛、そして肉欲。
母が俺を欲するのなら、俺はそれに応えるまで。
父が果たさぬ役割を補うのも、子である俺の役目。


…だから、俺が母と寝ることに何の不都合があるだろう。
父も無言で少し笑い、好きにすればいいと暗に告げた。

(許可なんて、本当は意味がない。
そもそも、俺を生かすも殺すもあの人の指先一つ。
そして俺は生かされている。これが答え。)


顔のない女は重い鎧のような衣服の下に、真珠のような鈍い輝きを持つ乳白色の肌と豊満な乳房を隠し持っていて、俺の下で乙女のように鳴いた。
一度始まってしまえばそれは、機械的で単調な儀式。



だけどある日、ハプニングが起きた。
がちゃり、と音がしてドアが開いて、弟がそこに立っていたのだ。

ああ、見たんだな。
「ドアはノックするものだよ、キル。」
ため息をついて言ったら、凍り付いたような表情のまま、幼い唇が何かを言おうとして、わななく。ほんとうに、なんてわかりやすい子供。
「驚いたのかい。」

「…まあ、ね。」
かろうじて余裕を保ち、笑いのような形に口角をあげて弟が答えた。
すかさず、母がいつもの甲高い声でヒステリックに退室を促す。
子供は彼女に一瞥もくれず、きびすを返すと足音もなくその場を去った。


* *


母と事を済ませた後、まだ陽の高い中庭に降りると弟がいた。
ぼんやりと芝生に座り込んで、こっちを見てる。
「何をしてるんだい。昼のトレーニングは済んだのか。」
「……。」
「返事は?」

少し語気を強めたら、視線が変な風に泳いで、狼狽したような表情をして、うつむいた。そして、消え入りそうな声。
「…いつから…。」
「何が?」
「…お袋と…。」
「お前に関係ないだろう。」
「……。」

陽気で少し暑いくらいだ。
目の前の子供の白い首筋もうっすらと汗で光っている。
母親よりも柔らかなその肌を不意に思い出し、先ほどの余韻もまだ冷めやらぬ体が疼いた。

「昼のトレーニング用の課題は済ませたのか。」
また返事が無い。こっちを見ようともしない。
少し焦れて、傍らに座り視線を向けさせようと手を伸ばした。

「……触るな。」
不自然に甲高さを押し殺したような子供の声。
「汚ねえ。」
吐き捨てるようにつぶやき、思い切り顔を背けた。行き場を失い俺の手は宙づりになる。

「言っている意味がよく分からないな。」
本当にわからないからそう言った。そしたら、

「汚ねえって言ってんだよ!親子だろ…あり得ねえ。」

いきなり切れて叫びだした。

「この家はサイテーの淫売宿だ。」

驚いたのは俺の方。そんなこと、今頃言い出すなんて。
一体この弟は、今まで我ら一族の何を見てきたのか。

キル、お前は少し、外の世界の風にあたりすぎたよ。
2年、だっけ?お前がこの家にいなかったのは。
これはもう、幼児だったお前を天空闘技場なんかに放り込んだ親父のミスだね。


「淫売はお前だろう。」
「…な、」
「俺に抱かれて喜んでいたくせに。」
絶句し、蒼白になった後、うっすらと耳が赤く染まる。あまりにも予想通りの反応に俺は苦笑する。

「くだらないことで腹を立てるのはやめろ。お前はただ黙って、おとなしく修行をしていればいいんだ。」
そして修行の後で、壊してやるよ。いつものようにね。

「…嫌だと言ったら。」

まだ逆らうか。今日は本当に聞き分けが、悪い。

「どうもしないさ。そもそも意味が無い。お前は親父の人形なんだから。親父が修行しろと言ってるから、お前はやるしかない。そして俺が親父の代わりにお前を鍛える。」
「……。」
「さあ、機嫌を直せ。修行だ。時間がないよ。明日もお前に仕事の依頼が来てる。結構難しい案件だから、ベストの状態で取り組まなきゃだめだしね。」

腕をとってひっぱろうとしたが、キルはうつむき座り込んだまま動かない。いつもは冷静な俺もさすがに苛立を感じた。言うまでもないと思っていた言葉がつい、口をついて出る。

「キル、言う事をおきき。俺や親父のいうとおり修行し、仕事をこなす。そして誰よりも強くなってこの家を継ぐ。それがお前に用意された道なんだから。」

ぴくりと、子供の薄い肩が動く。

「兄貴、」

くぐもった声がした。

「…俺は、一度だって、自分からやりたいと思って殺した事は、無かった。」

何が、言いたい?
俺はうんざりするのを通り越して、目の前の子供に憎しみすら感じそうになった。

「当たり前だろう。そもそも俺たちの仕事にやりたいも、やりたくないも無いんだから。」
修行など後回しにして、この場で押し倒してめちゃめちゃにしてやりたい衝動をかろうじて抑える。


「違う。俺は…」

俺の視線の下で、ぶるぶると、白くなるくらい握りしめた弟の手が震えた。動揺と、躊躇。


「兄貴のために…やってたと、思う。」


絞り出すような、哀願するようなか細い声が、かすれる。

「兄貴が、やれっていうから、だから、俺は…」


そして沈黙。
俺も一瞬言葉を失う。



馬鹿な、子供。





「キル、お前は重大な勘違いをしているよ。お前の意思なんて、俺にはどうでもいい。」

やっとのことで、そう言ってやった。
目の前でうつむいたまま動かない、銀髪の後頭部。

気分が、悪い。

俺とした事が、こんな子供の台詞に、たとえほんの少しでも動揺するなんて。

やりたくない?何を言っているんだろう。この運命に逆らう事など出来るはずも無いのに。
俺のために?意味が分からない。俺は自分の使命を遂行してるだけで、お前はお前の役割を果たす。それでいいんだ。

「だいたい、お前、自分に本当の自由意思なんてものがあると思うのかい?」

人形のくせに。
親父に作られた俺に、更に操られる、人形のくせに。

「もしそう思ってるとしたら−−それは不幸な錯覚だよ。父さんはお前にそんな余分なものは植え付けなかったはずなのだから。」

−−−−この俺にもそうであったようにね。

「キル、返事は?」






答えは無かった。









その日の修行はさんざんだった。
キルアはすっかり腑抜けていて、俺が何を言おうとも、どんなに脅しても、通常の十分の一もまともに動けなかった。
あたかも、あの短い会話のため、全てのエネルギーを消耗し尽くしたとでも言わんばかりに。

馬鹿げている。馬鹿馬鹿しすぎる。



これでは明日使い物にならないと判断した俺は、仕事を肩代わりすることにし、お仕置きとして弟を電気椅子に一晩くくり付けてやった。

翌日、高圧電流に曝され憔悴しきったところ、更に水攻めにした。
さすがの弟も意識を失い、虫の息になったところを後ろから犯してやった。木偶人形みたいに反応がなくて興ざめで、俺はますます苛立が募るばかり。

これは、人形のくせにと蔑まれたことへのささやかな報復か。
あまりの不愉快さに、そのまま放置して仕事に出た。








それから数日後のことだ。

仕事をはしごした俺が帰る前に、キルは家から逃げ出した。






母さんとミルキを刺して。







END



〈作者後記〉

ヲヲヲ…イルミ一人称、難し〜ですね…。
えっと、あくまでもこの話は、ゾル家一族の人間関係に関する腐女子的一解釈というつもり…です。
でも、それにしても厳しかった…。
書くにあたってゲームの目標くらいの気分で考えてたのは、原作で見た雰囲気と整合性があるように話を作る!ということだったのですが、挑戦した結果息も絶え絶えという気分でございます。だ、ダメですね……(汗)。特にパパの設定が厳しい…。
あと、なんだか妙に長くなってすいません。

この話を考えるに至ってしまったもともとのきっかけってのは、「どーしてキルアはイルミ兄ちゃんといるときだけあんな変な反応するんだ?」ということでした。他の家族と対峙したときは割と普通なのに…。あと、母親がすごい嫌いらしいのも何故かなー、とか。
まあ、一般的な(腐敗度0%な)解釈すると「イルミは強いし人を操るようなタイプで怖いから」「父親の権威を盾に口うるさく干渉してくる母親が嫌いで軽蔑してるから」あたりなんでしょうけど…。

いや、もう、夏ですし、すっかり腐ってますから。

(それにしてもこのお母さんの人生というか、家族の中での扱いを思うと、ちょっと心が痛むところもありますね。←こんなSS書いたお前が言うなって。)

というわけで、お粗末様でございましたm(_)m。
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