nous etions.....jeunes et betes.

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  L'enfant   

1.


フェイタンとのつきあいはなんだかんだ言って長い。
仲間内では一番昔から知っている部類に入る。

おっかねえやつだ。
血も涙も無い。

例え笑っても、いつも目が醒めてる。


人としての情?

さぁな。
どのみちこれまでの人生、そういうものがあるとかないとか、考える余裕なんかなかったはずだ。そこら辺は他の奴らだってそう変わりはねえが。
俺だって。





カルト、あの新しいメンバーになったガキをみたとき、フェイが好きな画家の絵から出てきたみたいな顔してるな、とぼんやり思った。
そのくらいだ。他に特にとりたてて感じたことはない。

変なガキだな。俺たちと全然育ちが違うはずなのに、どっか同じ匂いがする。
しばらく後になってから、片親が流星街から来たらしいって話をフェイからきいたが、それも説明になってないしな。




年取った、なんてこというにはまだまだ若いと思ってる。それどころか、団長も取り戻したし、これからが俺らの時代なんて気分にすらなってる。

でも、カルトのやつときたら、こっちが拍子抜けするくらい本当に、若い。
まだ10代の半ばにさえなってねえんだ。
それでいて立派に悪党だからさすが天下のゾルディック家とは思うが、それにしてもやっぱり、まだまだガキだ。

そしたらある時、シャルが突然、妙に感慨深げに言いやがった。
晴れた日で、めずらしく仕事も無くのどかに野原を散歩なんかしていたときだ。

「蜘蛛ってさ、世代交代とかするのかな。」

「は?」

「いや、ふと考えちゃってさ。その…」

と、ちょっと照れくさそうに言いよどむ。

「なんだよ。」

「俺はさ、俺たちがいなくなったら蜘蛛は終わりだと思ってたんだ。でも――――ひょっとして、今の俺たちが全員いなくなっても蜘蛛が続いたり、するのかなって。」

「――当然ね。定義からしてそれ当たり前。」

横で黙って聞いていたフェイタンが口を開いた。

「…うん。それは確かにそうなんだけど、俺が言いたいのはちょっと違うんだ。なんて言うかな……」

シャルが天を仰ぐ。金髪が陽に透けて透明だ。

「俺が言いたいのは、ずっと先の未来―――例えば100年後に蜘蛛があるかどうかっていう話なんだ。」

空よりも青い目が、彼方を見る。

「仲間が死んでも、たとえ団長がいなくなっても蜘蛛が続く、いや、続けなければならない、そのことは俺だってよくわかってる。わかってたけど心のどこかで、それは俺たちの人生が続く範囲の未来の事だって思ってたんだ。だけど――」

そこで一旦言葉を切った。ためらった。だけど言った。

「――だけど、最近夢をみるんだ。」

「夢?」

「うん…俺たちのいなくなった後も、新しい人間が来たり去ったりして、それでこうしてずっと続いていけば面白いよなあ…って。」

新しい人間、ねえ。
俺は草原の向こう、野うさぎと楽しげに戯れているカルトの小さな影をふとみた。(あいつのことだ、あとでぶっ殺してバラすんだろうな、と思いながらだが。)

気づくとシャルも同じ方向を見ていた。

「…ああして見ると、ほんとまだ子供だよね。」

シャルが笑った。なんだか妙にいい表情で、懐かしいものでも見るような眼差しで、笑いやがった。


基本的に戦闘狂の俺やフェイタンと違って、シャルはいつまでたってもどこか人が良かった。ときどき危ういほどに。
肝心なときには非情にもなりきれる頭の切り替えの速さとずば抜けた知性がなけりゃ、きっととうの昔にあの世行きだったろう。

俺はどう反応していいかよくわからなかった。


ガキが俺たちの中にいる。
確かにそれはやっぱり変な気分だ。
別に俺たちの仕事が変わるわけでもないし、子供だからって容赦する気もない。
だけどこんなふうに、ちょっとした光景に空気が緩む瞬間が前より増えた気がする。

特に今日みたいに空が青くて野うさぎがいるような場所じゃ、不可抗力だ。
長い仕事明けで久しぶりの休日ってのもあって、カルトのやつはひどくはしゃいでた。
いつもはすました顔して大人ぶってるくせに、今日は目が泳いでそわそわして、俺たちの話なんて聞かずに駆け出してた。
大人には何の変哲も無い自然や日常の全てがあいつには新鮮でたまらない。
次々と湧き出る質問、貪欲に吸収する頭脳。
その表情も態度もめまぐるしく変わる。
傍若無人かと思うと一転してしおらしかったり。
ふてぶてしさを気取ってるつもりで、全然サマになってなかったり。
その一瞬一瞬の仕草に俺たちもつい笑ったりして、同時に思うわけだ。
ああ、こいつの未来にはまだまだ、気が遠くなるような時間と可能性が待ってるんだよなあ、って。(それでも弱けりゃ明日死ぬけどな。)


シャルが妙な事を言い出したのも、きっとそのせいだ。

ノブナガあたりは喜ぶ話だろうなとぼんやり思った。
あいつは正真正銘の馬鹿で、仲間とか家族とか、人情とか、そういうことで熱くなるのをいつまでたってもやめられないやつだったから。
だいぶ前に、ヨークシンでクソガキ二人捕まえたときも楽しそうだったしな。


ちらりとフェイタンの方をみた。やはりつられてカルトの方を見ている。表情は読めない。だが、俺たちの方は向かずにぽつりと言った。

「旅団、流星街があるかぎり無くならない。違うか。」

淡々とした口調。しかし、どこかはっとさせる響きがあって、俺たちは息をのむ。

「多分、団長もそう言うね。」

何故か確信に満ちた言葉だった。そして振り向いて、

「…ま、カルトいつまで旅団にいるか、ワタシ知らないが。」
と、ちょっと皮肉気に口角だけあげるような浅い笑みを浮かべた。




つづく



【作者後記】

激しく需要のなさそうなネタを、またもや誘惑に逆らえずに書いてしまったのですが、フィンクス一人称って…微妙ですね。

ちなみに何歳まで「子供」なのかとゆーのは…難しいですね。とりあえずこれ書いてたときになんとなく思い出してたのは昔読んだあるフランスの小説でした。その中で、一貫して子供(l'enfant)と呼ばれるヒロインがいるのですが、彼女が「この前、私15歳になったの」と愛人(20代後半)に告白するシーンがあったんですよ…(汗
いや、だからどうってわけじゃないんですけど、とりあえずタイトルはそこからとっちゃった…(←殺
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