デート

(二)


とりあえず、お会計を済ませて、賑わいを増した街に出た。

実は、食事の後は普通に帰ろうかと思ってた。
俺らの宿は今居るところから電車で20分くらい離れたところにあって、レオリオとクラピカがいる。多分、俺らを待ってる。

でも、今日はこのまま帰りたくないかんじ。

だから、
一緒に居よう、と俺は言った。
キルアも短く、ん、と頷いた。

変な気分。
夜の灯りのもとで見るキルアは別の人みたいだ。
信号を待つために立ち止まったら、はずみで手が触れてなんだかどぎまぎした。


「どっかいーところとか、知ってんの。」
肩をすくめて、マフラーに半分埋まった口から白い息を吐いて、キルア。
「…全然知らない。」と俺。
仕方ないよ。だって外国だもん。

「…俺、一つだけならわかるところあるよ。」
いきなりぽつりとキルアが言って、こっち、と迷いの無い歩調ですたすた歩き出す。
え、とびっくりする暇もなく、俺は必死で後を追う。
大通りをわたり、入り組んだ小さい路地を曲がり、気がつくと俺達は静かな、でも派手な電飾の看板が立ち並ぶ区画に来ていた。

「この辺りかな。」



この国に、そういうことをするためだけの宿があるって事自体、俺は知らなかった。
そういえば確かに、普通のホテルとなんだか雰囲気が違って、いかがわしい。

キルアがなんでこんな場所知ってるのかとか、前にここに来た事あるのかなとか、すごく気になったけど、訊かなかった。
というか、フロントでキーをもらってエレベーターに乗り、指定された番号のドアを開けて薄暗い照明の部屋に二人きりになった途端、それどころじゃなくなった。


置いてあったスリッパに履き替えることもせずにそのまま、後ろからキルアを抱きしめる。

おいちょっと待てよ、と身をよじってかわそうとするのを無視して、更に強引に壁に押し付けて口づける。
戸惑うような声を上げたキルア、だけどその反応がすぐに熱を帯び、互いに貪り合う。

部屋は暖房が効いていて、触れ合う手も頬もすぐに汗ばんできた。

「暑い、」
キルアがついに、そういって俺から身体を引きはがした。二人とも息が乱れている。
白い手がマフラーが絡まるのをもどかしそうに外し、コートが床に落ちる。
俺もジャンパーを脱いだ。そしたらキルアが俺の服に手をかけて脱がし始めるから、俺の方も向こうのニットを引っ張って、あ、待てよ伸びる、とか言われながらも脱がした。


柔らかい光に仄かに浮かび上がる輪郭。
肌が吸い付くような感覚に目眩がする。憑かれたようにキルアの身体を確かめることをやめられない。
手、腕、肩、首、胸、腰、すべらかな肌の下に隠された形のいい筋肉を指が、唇がなぞって行く。
固く屹立したそれにそっと舌をはわせたとき、俺の頭をつかんだキルアの手に力がこもった。



* *



少しずつ、俺を飲み込んで行くキルアを見つめる。
目は閉じられ、少し眉根を寄せ、少し開いた唇から、吐息とも喘ぎともつかない音を漏らしている。
半ばまで沈んだところで少し動いたら、あ、と声を上げ、びくりと身体を震わせた。

キルア、

思わず呼んだ。キルアの目が薄く開かれ、俺を捉える。どこか焦点の定まらないような、苦しげとも恍惚ともとれる眼差し。だけどそれは一瞬のことで、瞳はすぐ閉じられる。そして、声を、表情を隠そうとするようにその手が顔を覆ってしまう。

手、どけてよ、
かすれる声で、言った。

答えが無いから、かまわず俺を遮っている指にキスした。そのまま、指の隙間からのぞく額にも。
手首をつかんだらキルアの方から観念したように戒めを解いた。
無防備に現れた顔に、俺はまた、夢中で口づける。瞼に、頬に、そして熱を帯びた唇に。

舌を絡め合いながら、ゆっくりと慣らすように腰を進めていく。
熱く脈打つそこに締め付けられながら、今すぐにも暴れだしたくなる自分を抑えて。

根元まで埋まったとき、じれったそうにキルアの腰がうねった。
それを制しながらに俺はゆっくりと動き始める。
熱くそそり立ったキルア自身が俺の腹に当たって擦れるのを意識しながら。
我ながらどうしたんだろって思うくらい、今日の俺は意地が悪い。
後ろだけじゃなくて、前からも来る刺激に耐えきれなくなったキルアが自分のに手を伸ばすのを、そっととどめた。
代わりに、少しずつ揺さぶるピッチを上げながら、空いた方の手でキルア自身を愛撫し始める。
固く張った根元の部分から筋に沿って親指を這わせ、濡れた先端へと持って行く。そして滑らかな亀頭をなで回し、先走り滲む体液を指に絡め全体へと広げるようにしながら握り込み、リズムに合わせてゆっくりと、でも確実に速さと力を加えていく。

押さえきれなくなった煩悶が、仰け反った白い喉から漏れる。
身体を震わせ、キルアが息も絶え絶えに、声を絞り出すのが聞こえた。

も、ダメだ、

おかしく、なりそ、

いいじゃん、おかしくなってよ、と思ったけど、
でも、俺の方ももう我慢が限界、言葉にする余裕は無くて、
それがしゃくだから、仕返しみたいに自分のを思い切り深く突きたてた。

悲鳴に似た鋭い声があがって、一瞬、痛がらせたかと心配になる。
だけど、いつの間にか俺の背中にまわってた腕にぎゅっと力がこもり、足まで絡み付いてくる。
あ、いいんだ、と安心して、その途端、俺もたがが外れた。
後はもう一直線に全力疾走。



……っ

ゴン、

ふれあう肌がすっかり汗ばんでぐちゃぐちゃになって、言葉にならない叫びと、俺の名前と、交互に入り乱れて、聞こえてくる。
デートしたのも、こんな場所に入ったのも初めてなら、こんなキルアの声も初めてだった。
気づくと俺も、必死で呼んでた。
呼び慣れた名を。





――最後の瞬間、

きみは、

まるで痛みに耐えるような表情で、


いく、

といった。



そう、



逝く、

―――――と。





* *





二人で一度死んでから、薄闇の中少しずつ生き返る。

この部屋、外が見えないね、とキルアの上に乗っかったまま俺はぼんやりつぶやくと、
あたりまえじゃん、とキルア。
人に隠れてヤリにくるところなんだぜ、外から丸見えでどーすんのと俺の耳の側でくすくす笑う。

俺は身体をずらして、キルアの横に身を横たえた。至近距離で光る碧の瞳と目が合う。
汗が少しずつ冷えて行く。

「外からは絶対に見えないんだ。だから、犯罪にも使われるんだよ。こういう建物は。」
「へえ…。」
「宿帳に名前の記録が残んないだろ。ヤバいものの受け取りとかに向いてるんだ。
俺も、すげえ前に取引で使った事あってさ。」
「…そうなんだ。」

でも、と不意に声のトーンが落ちる。
「そんときの仕事は失敗だったから、あんましいい思い出じゃないけどな。」

キルアが目を伏せて、顔を近づてきた。額と額が触れて、俺も目を閉じた。
ささやき声だけが聞こえる。

「……でも、ヤってないぜ。場所使っただけ。」
「…別に疑ってないよ。」


っていうか、
例え何かあったにしても、そんなのはどうでもいい気がした。

俺は今ここにキルアとこうして居る、これが一番大事だし、すごいことだ。
そしてそれは、いろんな事を含めそれぞれの違う過去があった、そのおかげなんだ。
違うかな。

どちらからともなく、キスした。軽く、微かに唇と唇が触れるくらいに。



俺の知らないキルアの時間を思った。
それは少し寂しいけど、心地よいことだった。
今俺の目のまえにいるキルアを作ってきた時間、記憶、その丸ごと全て、愛しいと思ったからだ。




でもうまく言葉にならないから、黙ってキルアを抱きしめた。








おわり







【作者後記】

9999Hitリク献上作品です。そら様ありがとうございました! 頂いたお題は「気持ち上向き系のゴンキルお出かけデート」(X指定ok)でした。
なんだか長くなってしまってすいません(汗)。まとめるの下手ですね〜。
その、X指定の部分から書き始めてしまってこの有様でございます…。
(…Xにしてはやや甘ちょろいという話もございますが。)

あと、お出かけがなんだかしょぼいのも…公園散歩して店回ってるだけですね(滝汗
いや、最初はヨークシンデートとか、くじら島とかパドキアとか、はたまた日本だったらお台場とか考えてたんですけどね…。イベントが削れられたのはホテルのせい…ゲフッ
どうも、お粗末様でございます。

それと、毎度の事ながらクラピカとレオリオを邪魔者扱いですいませんm(_)m >この二人のファンの皆様(もし奇特にも 拙宅へお越しいただいておりましたら)

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