White/Black Out

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あのとき、あんなに必死になったのは、妹が大事だっただけじゃないのかもしれない。
ずっとあとになってから、そう思った。

何もかもがおかしな家だった。狂っていた。
人の欲望を引き受けて、そのために己を殺し、他人を殺すために生きていた。
他人に消えて欲しいという、誰かの究極の願い。それを果たすためにオレたちがいた。

オレたちのおかげで、誰かが望みを叶える。オレたちがいるから、人が死ぬ。
そんなことを、おかしいと思うことも許されず、ただ生きていた。
そんな日々の中、妹――はオレの聖域だった。

オレが話しかけて、妹が笑う。
妹が笑って、オレが嬉しくなる。
白と黒。黒と白。血のにおいがした後も、そこだけは変わらないひととき。
小さな永遠。
変わらないで欲しい、無言の祈り。

友達がほしかった。
アルカはそれを叶えてくれた。
そしてナニカが生まれた。
守ろうと思った。妹ごと。

それは嘘じゃない。でも、


アルカについての記憶はある時点から、あやふやになる。
鳥や草花を追って一緒に遊んだ光景が、まるで映画のシーンが変わるみたいにぷつりと切れて、別の場面になる。
その中でオレはもう、アルカのことは考えていなくて、ひたすら背景は灰色。親父や兄貴がいて、必死に電撃に絶えたり、水攻めにあったりしている。
そのあとすぐに天空闘技場に放り込まれた。


母さんやミルキに逆らって、ハンター試験を受けたときも、アルカのことは考えていなかったと思う。


だけど一つだけ、覚えてる。
黒い目、黒い髪。
ゴンに会ったとき――――懐かしいような気がしたんだ。




ゴン、オレのともだち。

光の中で微笑んだ、お前の顔が忘れられない。
あの時お前、結局、死のうとしたんだな。
たとえ一瞬でも、もう、カイトのためにどうなってもいいって思ったんだ。
オレがどんだけ呼んでも叫んでも、届かなかった。
二人で過ごした時間も、これから待ってるかもしれない未来も、お前を繋ぎ止めることはかなわなかった。
全部投げ捨てて、駆けて行ってしまったんだ。

蘇った後でも、思い出しては刺さる、記憶。


だからだろう。
オレはアルカにいっしょにいようといった。
せめてお前の命を繋ぎ止めようと闘いながら、アルカに一生、共にいようといった。
昔、ハンターになるため山から下りた時には、思いも寄らなかったこと。
多分代償。

(でもどっちが?)

叶わない願いだって知っているんだ。ずっといっしょになんて、できない。
アルカが本当に普通の子どもとして幸せになるのなら、願ってはいけないこと。

それでもずっといっしょにいようといった。
まるで永遠を夢見るように、この世では叶わない約束をした。


白と黒、黒と白。

光がはじける直前、思った。


なあほんと、オレたちどうしてこんなに正反対で――――似てるんだろうな?


お前がアルカの身代わりだったのか、アルカがお前の身代わりなのか。
お前にとってのカイトがオレにとってのアルカなのか。
そのどれも、今はもう考えてもしょうがない。



そうさゴン、結局、オレもなんだ。

閃光。地響き。世界を溶かした、まばゆい白。
お前を治すときに見たあの光の中で、ついに、オレも投げ出した。

お前との旅の続き、そこで見たかもしれない風景。

そして普通のハンターとしての、未来すべて。





END




【あとがき】
ゴンとキルアのお別れ話です。
サイトを始めたときはこういう形になるとは思ってなかったなあ。
そもそも少年漫画だから、こんなにかっちりお別れみたいになると思ってなくて。
ほんと、本誌が予想以上にドラマチックでびっくりしたです。
(2014/3/10)

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