悲しいくらいに、ひどく幸せだった。
恐かった。
握った手が温かったから。
zenith
肌に触れた瞬間、なんだかヤバい気がした。
いつもそれまで、主導権握ってたのは俺。
だって向こうは俺が最初だし。
俺はこの年で色々知りすぎてる。
思い出せばいつも、自分から誘うくせにどっか冷めてた。
ああ、こう来たか、じゃあこう返そう。そろそろ、この辺で声でも出してみようか、とか。
別に気持ちよくなかったわけじゃない。感情が入らなかったわけじゃない。
良かったけど、好きだったけど、同時に頭の中で計算が止まなかった。まあ、そういうこと。
でも今日はなんだかおかしかった。
思い切り、調子狂ってた。
あり得ないくらいに。
身体が熱い。
侵入される。
飲み込んでいく。
驚くほどに、容易く。
身体の中心から広がる感覚に、
自然に声が出る。
なんだこれ、
わけわかんねえ。
目、合わせらんない。
この俺が。
俺、どんな顔してんだろ、
全然コントロールできてない。
世界がくらくらして、感覚が氾濫する。
自分を取り戻したくて、
反射的に顔を覆った指も小刻みに震えた。
そうしてるうちにも、侵略される。
はじめは緩慢に、そして次第に激しさを増して。
これはただのケツの穴なんだとか、
そんなにして俺の腸管どーなるんだとか、
そういう解剖学的事実が遠のいてく。