限り有るが故に永遠を想った

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戦場で


草いきれ、曇りのちスコール、そしてまた晴れ。
ずっと走っていた。
走り続けた。


遠い日の記憶に遠ざかっても、

草むらの影に眠るのは、幾千もの潰えた命の記憶なのか。


またあの季節が来る。


俺はどうして生き延びたんだろ。





戦場、駆け抜けた。
赤い血液、大地を染めた。


最後と思った。
急降下する体温。

浮かんだのは、


―――――――あいつの笑顔。




お前のために走っていた。

というか、自分でそうなるように仕向けた。
材料を提供し、お前に決断させる。
その言葉を人質に取って、
何をするのかどうなるかは知らせないまま、俺が動く。
本当のことを全部言ったら、お前は俺を止めるから。



どうして俺はここまでやるんだろ。
自分でもときどきわからなくなる。

ゴンが屈託なく笑って、俺においでよといって、ついに二人こんなとこまで来た。







命を落とす寸前、人外のモノに助けられた。
それまで戦ってた敵。
不意の気まぐれで情けをかけた異形。

「違う形で会えたらダチになってた」


カタチ。どういう意味で、俺はこんな台詞を吐いた?

違う状況であっていたら?
それとも、ヒトとヒトの形で会えていたら――?
どっちにしても、確かに大きく違うだろうな。


でも、なんて傲慢な台詞。

どれだけ殺してきただろう。
人も獣も区別なく。

その俺が、ダチを選ぶわけだ。



(その昔、アニキが言った。

キル、知ってるかい。

死だけは平等だ。

死ぬときは皆――同じ。
野良犬にも、貧者にも、金持ちにも、そしてお前もこの俺も。)



滑稽な茶番だった。
アニキ、確かにあんたは正しかった。
たとえ他の全てに間違っていたとしても、
このことだけは。

人を手にかけるべく育てられてきたこの俺が、
異形の者に狩られ、傷つき追いつめられていた。
涙も出なかった。
(それは多分、血を流しすぎていたから。)



ゴン、お前、こないな。
携帯にも電話、かかってこなかった。
当然か。
俺がそう、仕向けたんだもの。

―――うん、それでいい。
なんだかよくわからないけど、これはとても俺らしい。

(心残りは、役に立てなかった事だけ。)




全てが、平等に訪れる。
死も愛も。
本当に唐突にそれはやってくる。
この事実、本当にシンプルな現実を確認するためにきっと俺はここに来たんだ。

暖かい血が流れ出ていくから、
この身にたぎる血の熱さを知る。
お前が居なくて、ここがこんなにも寒いから、
その体温を思い出す。




森の奥深くで一人、大地を抱きしめた。



太陽が真っ白に輝いて、意識が途切れる瞬間、きっと笑ってた。









それからしばらく、記憶は曖昧で、緑がうっそう見える景色と光と、闇と、あのタコと。

事実関係としては、タコが知り合いの医者とかに見せてくれて、俺は持ち前の体力もあって回復した、それで間違いないけど。
でも俺は、どこにいたんだろう。


目を閉じるとずっと、自分が走っていて、草いきれがしていて、目を開けるとあのタコがいて、また目を閉じる。その繰り返し。どっちが現実なのかよくわからなくなるくらい、同じ映像が交互にやってくる。


ようやく意識がはっきりとしてきたのは何日目のことだったのか。
一番最初に、まぶしい真昼の光をみた。それは覚えている。
戦場にいたはずなのに病院にいて、周りに寝台が並んでいて、目の前にタコ。
二人、いや一人と一匹で向かい合って、それこそ非現実的で夢のようだった。


ようやく目が覚めたな、とヤツが言った。
俺はまだ視界が少しかすんで、ああ、とだけかろうじて答えた。



* 



ゴンと再会したとき、俺は笑ってた。
ついてきたタコがいて、ゴンが見つけたっていう仲間もいて、
満面の笑顔で笑ってた。
その後すぐ、戦いに行った。



そして今日も走ってる。
ずっとずっと、走り続けてる。


お前のために。





END


一応バレンタイン記念…の、つもりだったけど〜〜…ちと殺伐としててスマンです。それと、祝23巻発売決定v(←遅いって)

実はこのネタはもう去年の夏くらいから書いてたんですが、短いくせに書き上がらなかったです…。つうのも、キルアがその後どうなったかわからなかったもんだから。いずれにせよ、コミックス派の方々にはネタバレでスイマセン。終わりが微妙なのも、モロに執筆時の迷いを反映してます…。(2006/2/14)
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