夜明けの夢

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父さんが僕にくれたのは絶対的な暴力。
最初は辛くて、死にそうで、
だけど次第にそれなしでは生きている気がしなくなった。
僕が父さんには少し大きくなりすぎたとき、父さんは僕に弟をくれた。
今度は僕が弟に与える番。弟が僕無しでいられなくなるように。






狂った日常に絞め殺されそうだった。

母さんがオレを見張り、
兄貴がオレを犯し、
父さんがそれを見て笑ってる。



家族と肉人形しかいなかったオレの世界。昼も夜も暗殺の修行に明け暮れ、死体ばかりが足下に積み上がる。
阿鼻叫喚を聞くのも馴れすぎて、劇的さの欠片もなく。
他人の人生を破壊してるくせに、ただただ退屈な日々に、窒息しそうだった。

外界に、オレは何を求めていたのだろう。

同い年の初めての友人。
お前と会った時、何をどう感じていいかわからなかった。

ただ、まぶしかった。

全くの、他者。


笑っちゃうよな。ほんとうに初めてだったんだ。こういうの。

家族でも肉人形でもない、自分と同じようなもう一人の子供がオレを見て、笑う。
オレと違う場所で育ち、全く違う体験をして、今同じ場所にいる。


オレはまだ戸惑っている。

お前が気づいたように、オレは色々なことがうまく区別出来ない。
距離が縮まると、どう接していいのかとたんにわからなくなる。

そして頭の中で、あの声がする。

…知ってるかい。これは繰り返すんだ。そこから抜け出す事は、出来ない。

耳鳴りとともに思い出す。


オレを覗き込んでいた黒い瞳。底なしに、暗く深い光の宿る、あいつの。

父さんが僕にしたように、お前をかわいがってやるよ、キル。

気怠く動く重い身体の下で、人形のようにおとなしく、されるがままに聞いていたオレ。あいつの長い黒髪が絡み付く。
これといった感情は無かった。いつもの修行の後の、いつもの行為。平坦な日常の空虚なひとときが流れていただけだった。がらんどうなオレの中を風が吹き抜けているような、そんな気分で遠くに兄の声を聞いていた。

だけど今、全てがよみがえって、何故かひどく気分が悪くなる。
空っぽだった気分を思い出すと、吐きそうになる。
どうしてか自分でもよくわからない。


* * *


夜明けに苦しい夢で目が覚めたんだ。だから一人、昔の事なんて思い出しちまった。なんて非生産的。

冷や汗で濡れたTシャツが気持ち悪い。
横を見ると、友人の安らかな寝顔。
空には明け方の紫。

ほんの数時間前、こいつと初めてセ ックスした。



―キルア…本当にこうしたいの?

お前の腕をつかんだとき、真剣な顔で訊かれて、参った。
どうしてその気になったのか、自分でもよくわからない。
多分、雨が降り続いてて、トレーニングも出来ずに二人でだらだら部屋の中にいて、話題も途切れて、訳も無く憂鬱で、そんなときお前が間抜けな顔してオレの横で無防備に寝転がろうとしたから。

単なるお子様、ニブいやつだと思っていたお前は、オレの一瞬の衝動をみのがさなかった。思ったより、勘がいいんだな。
オレは即座に我に返って、不様にも呆然とする。
何をやってるんだろう、オレは。

アホみたいに心臓がばくばくいって、指先が冷たくなってる。

びびった?

一瞬声がうわずった。情けない。どっと冷や汗が出る。

いやならいーんだ。別に。

重くならないように、と思っていった。
お前は黙っていた。黒い目でじっと見上げられて、オレは動けなくなる。

少し間が空いた後、ちょっと気を取り直したって顔で、「まあ、いいや」とゴンが可笑しそうな顔をした。
そして、「どのみちオレ、キルアといるの楽しいよ」と言った。

オレはマトモに頬が熱くなって、目を伏せる。それって一体どういう意味だろ、と思ったけど怖くて訊けない。
短く、「オレも」とだけ答えた。

そしたら、今度はお前が、オレの方に手を伸ばした。ゆっくりと。うなじに汗ばんだ手のひらを感じた。オレは、引き寄せられ、 キスされた。


初めてまともに抱き合ったお前の肌は熱くて、オレに触れる手はぎこちなく優しくて、自分がこれまで知っていたものと全然違って、涙が出そうになった。

同い年の少年。

オレより少し背も低いから、互いに抱いて抱かれて、じゃれあってるみたいだった。
しかも向こうはまるきり初めてだから、オレに入れてもうまくイけなくて、最後には自分で擦って出してた。そして変な顔して笑った。



でも、


ほんとうに、よかったのかな。

傍らには安らかな寝顔。
幼い横顔。
心臓の鼓動が大きくなる。


お前はオレとまだ同い年のガキで、単なる友達のはずだったのに、こうしちゃうのは反則だったんじゃないかな。


自分と同じところに、引きずりこもうとしている、気がする。
兄貴がやっていたことを、お前にやらせようとしているような、気がする。

結局、そういうふうにしか、人とつながれないのかな、オレ。



だとしたら、どうしよう。


夜風に冷や汗が乾いてきて、聞こえるのはゴンの寝息と時計の音。
そしてまた、かすかな耳鳴り


ゴン、

オレ、ここにいていいのかな。

本当にいいのかな。




-----怖くてたまらない。




END
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