pourquoi tu m'aimes, dit-il.

はじめての

初めての友達だった。

そして、はじめてのひと。

最初は全くの好奇心だった。誘われたような感じになって、え、ほんとにやるの?って思った。
仲のいい友達、親友、なんか離れがたいくらい強く結びついてる自覚はあったけど、こっち方面にくるとは思わなかった、みたいな。

思わず、ほんとにその気なの?って訊いてしまったら、お前がいやなら別に、とか答えが返ってきて、急に目を反らして、のばした手を引っ込めようとする。
つい、戸惑いを隠して、俺がいやがるわけないじゃん、って反射的に答えた。
その瞬間から、今その気になったのか、実は最初からこうしたかったのか、どっちか自分でもわからなくなった。
もちろん、どのみち後悔してないけど。

でも、考えてみれば君はいつもそうな気がする。
自分から振っておいて、俺に決断させてる。
そして、それはゴンの望みだろう、という顔して黙ってついてくる。

君と居ると、なにをするときも、シンプルでなくなる。
これが俺の望みなのかそうでないのかとか、
俺が自分の願望を君に押し付けてるのかなとか、
いや、それとも、君が自分の望む方向に俺を行動させようと誘導してるんじゃないかとか、
それともその逆で、やっぱり俺の押しつけなのかなとか、
だんだん、わけがわからなくなってくる。

まあ、いいや。考えても堂々巡り。


そういうわけで、君とした――わけだけど。

最初のときは、俺の方がうまくいかなかった。
堂々としてたキルア。
かっこいいし、何より色っぽくて、驚いた。
素直に、奇麗だと思った。
だから面と向かってそう言ったら、キルアはちょっと奇妙な顔をして、短く笑った。
お前、こういうの初めて?

もちろん、って答えたら、デートとかしたことあるんじゃなかったの?とからかうような声。
それとこれとは別でしょ、って言ったら一瞬の間があいた。

ふうん。俺と全然違うね。俺、女と街に出かけたりとかしたことないけど、こーゆうことだけはよく知ってるから。

乾いた声だった。
口の端を歪めて、かろうじて笑顔にみえるようなぎこちない表情してた。

そうだった。
何故かはわからないけど、その瞬間だ。
胸が痛んだ。
そして唐突に、俺はこの友達が気になってしょうがなくなった。

これまでも何度も、一緒に居られてよかったとか、会えて良かったとか思ってたけど、その頃の明るい無邪気さとはちょっと違った感情を、急に自覚したんだ。




その後もしばらくの間、二人で仕事して、何もかもうまく行ってたと思う。
今よりも単純な子供で、何もかも遊びの延長みたいに楽しめたってのもあるけど。
俺が無鉄砲やって、キルアが止めて。

それでも時折、キルアがまたあの妙な笑顔で、
俺、アイだのこいだのってわかんないんだよね。
なんて意味ありげにつぶやいてたけど、そのたびに、そんなの俺もよくわかんないよ、二人で居て楽しければいいじゃない、って笑って無視した。
実際、一緒に暮らして仕事もはかどって、忙しい日々。俺は幸せって感じがしてたし、キルアもそれでまんざらでなさそうだった。

だけどあるとき二人で取り組んだ大きい仕事が終わり、平和になった。
まるでそれは、長い長い夏休みのようで、本当にしばらくこれといった仕事がなかった。
小さい小競り合いや民事に関わる事件はあるけど、旅団やキメラアントを相手にしたときみたいな、「総力戦」を要求される類いの大事は稀という状況。

とたんに、キルアは働かなくなった。まるでゼンマイの切れた玩具のように。
世界は平和へと向かってたから、紛争地の復興事業とかの人道支援系や、遺跡発掘事業とかの文化振興関係での「大きい」仕事はあった。俺はそういう興味あるからやろうって言ったんだけど、キルアは興味ないって見向きもしなかった。
でもこれも考えてみれば変な話。
政治・経済にしろ文化・芸術にしろ、実際にはキルアの方がよく知ってて、「家族の受け売りだけど」なんていいながら、よく俺に説明してくれてたくらいなんだから。


それはまるで、平和がキルアを機能不全にしてるみたいだった。

昼まで眠っては午後中家でゴロゴロ。たまに機嫌がいいと、家掃除したりとか、人の分まで家事とかやってくれたりするけど、すごいきまぐれだからあてになんない。
夕食が終わると、「テンションあがってきた」とかいってトレーニング始めて、すごい熱心に、それこそ何かに取り憑かれたみたいに夜中までやってる。で、それが終わったら大抵は朝までゲーム。
俺も最初はすっかり夏休み気分でつきあってたけど、半月くらいしたらイヤになった。
毎日同じリズムで時が過ぎてって、貯金は減るし、流石に働かなきゃって気がしてきた。
だけどキルアは全然そうじゃなくて、平気で大きい買い物とかするし、カジノで遊んだりしてる。
仕方ないから、俺はちょぼちょぼ一人で仕事しだした。

…その頃からかな。
だんだん亀裂が入ってきたのは。


つまらない口喧嘩が増えて、それもこじれるようになった。
行き詰まると、キルアはすぐにふらっといなくなる。
どこ行ってたのっていうと、お前に関係ないよって答えが返ってくる。
そう、って思って、放っておくと、どんどん機嫌が悪くなる。
というより、荒んでいく。
家に何日も帰らないで、たまに戻ると身体に変なけがやら痣やら増えてる。
妙にお金を持っていたり、何日もろくに寝ていないような顔をしていたり。

そして次第に知り合いから、キルアをカジノで何度も見かけたとか、毎回違う人と一緒だったとか、変な噂が色々入ってくるようになった。

あいつ売春してるよ、って言われたときは流石にキレて、キルアはそんなことしないよって真剣にかばった。

だけどあんまり同じような話が続くので、次第に俺までもそう思い始めた。
賭けで負けて金すって、真面目に働く気力は無いからナンパして手軽に金儲けて、また賭けて、みたいなループにはまっててもおかしくないなって。

本気でちゃんと話さなきゃと思った。
行動にもうつした。

でも、難しかった。
電話して、帰ってこいよ、って言うと、俺の行動束縛する権利なんてお前に有るの、とかいう。
そのくせ、他のヤツと寝るなよって言うと、ちょっと嬉しそうな顔をする。
場合によっては、仲直りムードになってHしたりすることもある。

だけど、その後すぐ、君は言うんだ。
俺がお前の専用になればそれで満足?
他のヤツと寝るような俺は要らない?

って。

そう訊いて、またあの笑顔で笑うんだ。

そのたびに俺はなんだかわけのわからない、不安と胸苦しさに襲われて、
違うよ、って言わなきゃならない気分になった。
そしてどう言葉を続けていいかわからなくて、とりあえずぎゅっと抱きしめてみたり。

抱きしめられると、君は抱きしめ返してくれる。
質問も引っ込んで、言葉が無くなって、二人和やかになる。
でも続かない。
結局また何かの拍子に喧嘩して、同じ事の繰り返し。
要は完全に向こうのペース。


他の人と寝るなよ、か。
最後の方なんて、言ってる俺の方が、何を今更って気分で全然気合い入ってなかった。
うっかり見ちゃった携帯には変なメールが一杯だし、時折、妙に立派な車に送ってもらって帰ってきて、それも毎回違うし。
(…ひょっとして、これも全部わざと見つかるようにやってたのかな?)

それでも、一度だけクラピカと何かあったらしいことに気づいたときは、さすがにへこんだ。でもまあ、それも過ぎた事。

…俺のこの「物わかりの良さ」がまた、キルアをイライラさせてた。
わかってた。でも、他にどうすれば?

束縛してほしかった?

(君が俺の物になるから君が好きだとか、そういうんじゃなかった。 それは明らか。そんな交換条件みたいな考え方、俺には思いもつかないのに、君はそういう発想にいつも取り憑かれてるみたいだった。)

それとも、自由にしてほしかった?

(君が他の人と寝たって知って、最初は単純に嫉妬した。売春したかもって聞いたときはそれ通り越して心配になった。そして次第に感覚が麻痺していった。君の行動全てを許すよ、みたいな態度を取るようになった。それは、君の事が好きでどうしても離れたくないのと、だんだん君の事がちょっとどうでも良くなってきたのと、両方の気持ちの現れ。どのみち、誠実じゃなかった。)


ねえ、キルア。

ほんと、俺にどうして欲しかったの。
…俺はどうすれば良かったんだろ。

むかし育ての親が―ミトさんが―その人の怒りを知ることは、その人を理解することにつながる、って言った。

そして、鈍い鈍い俺でも、最初からわかってたことがあった。
それは、キルアの中にある深い怒り。
あまりにも古すぎて(恐らくはずっと幼い頃から)、怒りから憎しみを通りこして悲しみにすら変わってしまった感情。
本人自身、何に向けて怒っているのか、どうしてそうなったのか、途中でわからなくなって途方にくれてしまっているような、そんな類いの怒り。

それは多分、日常が戦争状態にあった高揚の中では、昇華されていたけど、平和になったとたん、自分の心をみつめる時間が出来たとたん、向き合わねばならなかった暗い情念なんだ。

家族に反逆したり、見知らぬ人とセックスしたり、側に居る俺を傷つけたりすることで、かろうじて表現されている、苦しい感情。

それでも君が今、誰も殺さずに暮らしていけるのは正直、すごいと思う。
暴力に首まで浸かって育ちながら、俺を傷つけるために使うのはいつも言葉か、こちらの胸が痛くなるような沈黙。

ギリギリ保たれている危ういバランス。
ピンと張りつめられた、今にも切れそうな糸。

俺を苦しめて、そして何よりも痛んでいたのはきっと、君自身の心だった。

それもわかってた――――つもり、だけど。





…キルア、

俺、弱いね。


知っていて、わかろうとした。
側に居たくて、近づこうとしたんだ。

だけど、全然甘かった。
自分の無力を思い知った。

正直いうと、これ以上もうダメかもって気がしてる。



そう、疲れちゃったんだ。






……ごめんね。







END



〈著者あとがき〉

原作キルアファンの方々、ごめんなさい。
受けのくせになんだか凶暴なお子さんです。どうしようもないです。

ゴンファンの方々も、ごめんなさい。
もはやゴンではないぞ、的な台詞の羅列…(汗)。
「紅い花」の16歳ゴン独白で既に暴走してしまっているので、まあ、その延長ということで…。
実際、一応「紅い…」の前編という気分で書いてます。あちらだけ読むと、ゴンの方が一方的にワガママしてるような話になってますが、管理人の脳内設定的には、実はゴンに負けず劣らずキルアもけっこう困ったちゃんだったのよ、というのがありまして。今回はそれを書いちゃいました。

でもこれで別れて終わり、という感じではない人達だろうなとも、思ってるです。…これでも、二人の愛を応援してたり……(大汗)。

〈著者あとがき2〉
少し、日本語表現おかしい、というかピュアに間違えてるところあったんで、直しました…すいません。
昨日最善を尽くして推敲したつもりでしたが全然甘かったです。陳謝。(4/29夜)





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