取引だよ。
オレの死と、ゴンについてのお願いをお前自身ですることと。
さあ、殺せよ。喜んで死ぬ。
そう言って、まっすぐにオレを見た。
いつもと同じ笑み。
光を宿さぬ瞳が、本望だ、と告げる。
オレを殺せばいい、悔恨の念に囚われたお前の中で、ずっと生き続けてやるから、と。
知っていた。
兄貴、あんたはオレを愛してた。
針を刺して支配して、オレの自由全部奪って側に置きつづけたいと思うくらい、愛してた。
だけどオレの大切なものぜんぶ、あんたには興味ない。
オレが今守りたいアルカも、そしてゴンも、あんたにはどうでもいい。
そんなあんたから、オレは解放されたい。
(それでも時折、襲ってくる)
(過ごした日々、積み重ねられた、記憶の断片)
(麻痺した感覚の中、何も感じずに生きてはいたけど)
(同じ時間に起きて、決まった場所でおはよう)
(今日のターゲットはこいつだよ、キル)
(その前に朝食でも食べておいでよ)
(軽く肩を叩く。いつものルーティン)
(血の匂い)
(家族の、風景)
(いやでたまらなかった)
(自分から、逃げた)
(今でも、後悔してない)
家族とオレの命のために、あんたはアルカを殺したい。
そのためなら自分の命すら、惜しまなかった。
当たり前のように、さあ殺れよ、と笑った。
本当に、オレの大事なものは、全部、あんたにとってどうでもいい。
あんたはアルカをモノ扱いして、
あんた自身の命も、道具でしかなくて、
(いつもいつも、ほんとうにいやになるくらい、側にいた)
(オレの、兄)
そのすべて、頭の中でぐるぐるめぐって、ただ、
(もう帰れない、日々)
(二度と)
涙が、溢れた。
END