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c'est l'amour lui-meme qui m'a tue.

禁じ手


3.


次の日、俺がまだ寝てる間に、ゴンはいなくなってた。
身の回りのものをまとめてトランク一つで飛行船に乗って、消えた。
残したのは簡単な書き置き。ごめん。しばらく頭冷やしたいから、とただそれだけ。
この先どうするのかはっきりした言葉は無かったけど、当分会う事は無いだろうというのだけはわかった。


あれから随分日が過ぎて、季節も変わろうとしてる。
何となく、メールも送らないまま、ゴンの足取りを追う事もせずに俺は一人、同じ家に住んでる。
ゴンの部屋は閉め切ったままで、そろそろ掃除でもしないとやばいころかもしれない。
いや、むしろまずいのは俺の部屋の方かな。買った記憶の無いモノがどんどん増えて、空き缶やら菓子袋やらあちこち散乱して目も当てられない惨状。

昨日、送られてきた口座の明細を見て、ゴンが今月も自分の分の家賃を振り込んでくれてたことを知った。


なぁ、今ごろどこで、何してる?
レオリオとクラピカの口ぶりで、こっからだいぶ遠いところにいるってことだけはわかった。
じゃあ、今こっちは夜だから、そっちは朝なのかな。


ゴミの山に囲まれて窓から空を見上げると、星だけがやたらきれいで目にしみる。



ふと、このまま明日が来なければと、願う。
お前の見た朝に追いついてしまいたくない。
同じ空の下に居ることを思い出してしまうから。




無償で愛するといったお前の善意が辛かった。

身体を差し出して絆をつなぎ止めようとする俺を
ただひたすら、無言で暖かく抱きとめようとした腕に
むしろ打ちのめされた。

(まぶしすぎる光に目を灼かれた。恵みの太陽を直に見たのは間違いだっだ。
あのまま暗がりに囚われたままで居たなら、ここまで壊れることは無かった気がする。)



どんなに洗っても堕ちない染みのように、どれだけ光に晒しても消えない影が俺の中にある。
それだけは随分早くから知っていた。

俺はどうやってもお前に値しないのだから、それならばいっそもっと堕ちてしまえばいいと思った。
なのに堕ちれば堕ちるほど救いが欲しくなり、それで救いの腕が差し伸べられると、今度はその腕がもげんばかりに強く引いてこの俺の地獄へと道連れにしたくなった。

(うかつに手を差し伸べちゃだめ、腕ごと持っていかれるよ、そういったのは誰だっけ。兄貴?)

そう、内なる地獄。―――喪失への恐怖、執着と嫉妬が際限なく押し寄せる。

俺は一人、やりたい事も見つけられなくて、その傍らでお前がハンターとして着々と仕事をこなし、新しく出会った同僚や友人と自分の世界を作っていく。

俺はといえば、ただ同じところをぐるぐる回り続けているような毎日。
どうしてこんなに違うんだろ、と思って嫉妬した。
お前に、そしてお前を取り巻く周囲の人々、世界、その全てに嫉妬した。

俺に持っていないものを持っているお前が憎いし、お前をあっさりと俺から取り上げてしまおうとする世界も憎い。

だけど何よりも、こんなわけのわからない感情にはまり込んでもがくしかない自分に、ずっと吐き気がしてた。

目眩、頭痛、怠惰、夜更かし、彷徨。時に無駄な放蕩または暴力。
夜明けの焦燥感。

そして早朝、新しい仕事の打ち合わせだとかいって出かけようとするゴンと玄関ですれ違う。

その横顔が、背中がいやに清々しくて、
ふと、もうお前がどこにもいかないようにこのまま殺してしまいたいなんて衝動に捕われたりして。
だけど拳を握りしめたその瞬間お前が振り向き、そいじゃまた後で、なんて笑うから俺は正気に返り、深く恥じ入るんだ。

そんなことの繰り返し。


こんな暗い情念、お前も一度感じてみればいいと思った。


だけど俺がどれだけ挑発しても、お前は悲しそうな顔で呆然としただけ。そして次第に諦め顔になり、最近なんてもう無反応になった。


(わかってる。そうさせたのは、俺。)
(…それでも、例えば、他人の体臭を身にまとって帰ったあの夜に、少しうつむいて、あ、冷蔵庫に夕食有るよ、なんて言わないでほしかった。)

――でも、じゃあキルア、俺にどうして欲しいの。

一度、面と向かってそう訊かれた事があった。
正直、答えられなった。

(考えれば考えるほど、わからない。)
(…例えば、兄貴がしてたみたいに、有無を言わさず俺を殴り倒して床に押さえつけて犯してほしかった?
それこそもう、俺はこの人から一生逃れられないしこの人も俺を絶対見捨てないって思えるくらい、激しく。)


(…いや、多分、違う。それはもう、無理なんだ。)

(でも、じゃあ、どうすれば。)

(……わからない。)



ほとんど狂気。救いがたい悪循環。
ほんのわずかでも正気にに帰るたび、自己嫌悪に苛まれた。
…そして、今も。



いつか、この全ても過去になる?
そんな風にはとても思えない。
というか、先の事なんて考えられない。


今はただ、息をするたび苦しくて、
身体が重く、生きている心地もせず、だからといって死ぬ気力も無い。
そんな気分のまま夜明けが来てまた日が昇る、この単調な反復が堪え難く感じてたまらない。


ほら、こうしてる間にも空が白んでく。


願いも叶わず、また朝が来るんだ。





おわり




【作者後記】

キルア@かなり不安定超受Verということで…。
一応、ゴンモノローグSS「はじめての」と対応する話のつもりなんです。
それにしてもちょっとキルア壊しすぎって感じですけど。あと、長過ぎですね(汗

あと、第一話と第二話、三話の間に時間が空きすぎてるので、やや統一感が無くなってしまったのも反省です。読んでくださった方、どうもすみません。


なお、以下はやや長めの語りなのでご関心の無い方はスルーしてくださいませ。


このHPのゴンキルについてよけいな話をしてしまえば、キルアはゴンをいろんな意味でまぶしく思ってるわけですが、だからといって、ゴンがじゃあホントに素晴らしいのかというと、別にそういうわけではないつもりで私は書いてます。むしろ、惚れた弱みでキルアはやや無批判になってて、キルア自身も薄々それに気づきながら目をつぶってるくらいの感じということにしてます。
例えば、この話でのゴンは、勝手に長期家出しておきながらはっきりとどうしたいかは意思表示はしてくれてないわけで、普通に考えればちょっと迷惑なヤツです。どこかで、放ったらかしてもキルアなら待っててくれると思っているふしがあります。(ちなみに、ゴンの豪快な家出に対して、キルアがその前にやってたのはプチ家出で、最長でも一週間くらいすれば帰ってくる感じのものと設定してます。)

私の勝手な妄想設定では、15〜16歳のゴンは無意識で自然な尊大さの身に付いた少年ということになってます。何が言いたいかというと、まあ、多くの男性がそう育てられるように、自分がリーダーシップをとって他人の人生を変えるということにあまり疑念が無いということです。よく言えばカリスマ性があるのですが、悪く言えば傲慢です。それも、まったく後ろめたいところがなく、もう明るく善意で、自然に傲慢なのです。

それがどういう感じかというと、例えば、ゴンは自分が他人(例えばキルア)の人生に多大な影響を及ぼしてしまうことについて、「キルアにはキルアの人生が有るのに、邪魔したら悪いかな」というような事は思いません。というか、そもそも考えつかない。特に、キルアの側からはっきりとした「嫌だ」「No」の意思表示がない場合は尚更です。

その部分がキルアを惹き付けるという部分もあります。というのも、自我の不安定なキルアにとっては、自分の欲求を見つけだす(または作り出す)作業に取り組むよりも、とりあえずは人の欲求を自分のものにする方が楽だから。
だけど、キルア自身がそれで本当に幸せかというとよくわからない。
いや、正確にいえば、それで幸せになれるタイプの人も世の中には確かにいて、それはそれでいいことなのですが、果たしてキルアがそのタイプかどうかは不明ということでしょうか。
というわけで、とりあえずこのぐちゃぐちゃしたお話になるわけです。

以上、作品を書いた後で自分で解説するっつうのは考えてみれば反則なのですが、作品を書きながら自分の頭も混乱しそうになったので、つい、やってしまいました。

*一度Upした後、あまりに文章がわかりにくいので書き直しました。ご迷惑をおかけしてすみません。
**更に本文にかなり手を加えました。往生際悪すぎです…。(9/20)
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