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  COld BoDy  


どこまでも堕ちる奈落になら身を投げ出そう
全てを焼き付くす炎にならば焼かれてもいい

運び去れ
虚無へ






金目当てに人家を襲って、殺した。
街外れの一軒家、比較的裕福そうな老夫婦と娘が住んでいた。


全てが息絶え静まり返った家の中、死んだ女を抱いた。



女の身体にはほとんど傷が無い。
一撃で首の骨を折ったからだ。
その手段を選んだのは単なる気まぐれだった。
最初から何か意図があったわけじゃない。
だが気づくと、肌が白く首の鬱血より外欠けるところの無い若い肉体を足下に見下ろし、勃起していた。





全てが偶然から生じた。


この場所に通りかかったのも、
凶行に及んだのも、
女の死も、
突然の劣情も。






後ろから抱えて貫き、床に押さえ付けて揺さぶり、放つ。
痙攣に襲われ快感のあまり他愛も無く声が出て、ぐにゃりとした肉塊の上へと倒れ込んだ。
死体はまだ暖かく、柔らかい。



弾力の無い肌にもたれ呼吸を整えながら、頭はひどく冴えていた。
そして、奇妙なものだ、と思った。



生きている女とやるときは、中に出す事をむしろ避けていた。
避妊の心配をしてやる気等毛頭起こらぬ様な犯罪的な状況ですら、しばしば外にぶちまけた。


只の好みだった。
——暖かい女の腹に自分の子種が泳いで行くなど、想像するだけで嫌になる。
何故かそう思っていたからだ。


だけど今、物言わぬ屍の既に熱を失いつつある体内にそれが吸い込まれて行くのを、不思議な充足感とともに感じている。



生と死が交わるほの暗い境目に消えていく、液体。



頬にふれる皮膚の感触がすべらかで、目を閉じると、酸えた体液の臭いに紛れほのかに甘い肌の香りがした。しばらくたてばこれもやがて、只の死臭に変わるのだろう。











汗が冷えた頃起き上がり、重力にひたすら従順な肉体をひっくり返す。
窓から差し込む朧げな月明かりにその輪郭が浮かび上がる。惜しげも無く全てをさらけ出しながら。


「お前、ワタシが憎いか?」


覗き込み、意味も無くその頭を小突いてみた。
頸椎の支えを失った首が重たげに揺れる。曖昧な笑みとも苦悶ともつかない表情を浮かべたままで。


「ワタシも、多分憎んでたよ。知てたか。」


わざわざ女にわかる言葉で話しかけ続ける。
もう聞こえないのに。


「お前を一目見たそのとき…ただ殺すだけでは足りない気持、感じたね。」


耳元に熱く囁く。
そっと髪を、撫でる。


「だからこうして、犯してやた。わかるか。」



まるで愛の言葉のようだ。
だが心を満たすのは、空虚。



「…でもこれも全て、今のお前にはどうでもよいことね。」



居間から続く暗い廊下を見る。
闇が深い。
深くて、じっと見据えていたら目の奥に刺さるような感覚に襲われて目を閉じる。




「もう……向こう側に着いた頃か?」


いや、何を言っているのだろう。
死後の世界なんて、本当に信じた事などないくせに。

クロロなら違うように言うのだろうけれど。
(でも彼は側に居ない。もうずっと前から、長いこと。)



長い睫毛、通った鼻筋、形のいい唇。
死体は綺麗な顔をしていた。
一目見ただけで良家の子女とわかる装い。
富と安逸の気配を死後尚も漂わせている。
こうならなければ自分を受け入れる事など無かった、そういう類いの女だ。


つまりは常に、向こう側の存在。
生きて交わることはない。
わかっている。
だから今、こうして、欲しくなったのだ。






薄く見開かれた瞳が濁った色に変わっている。
恐るべき速度で安らかな死の影が覆い始めていた。


死体は寛大に、全てを委ね晒している。

自分のようなものすら受け入れて、
そこにただ、在る。



「…憎しみも、ないか。」



月光が、翳る。

呟く声も闇にまぎれていく。


広がるのは、安寧と静寂だけ。



予期していた事。
所詮は独り相撲。




(裁きすら無い。)




目を閉じていても開けていても変わりはないような闇の中、
物言わぬ屍の傍ら一人横たわる。

己の気まぐれにより理不尽な死を与えられた者の傍らで、
やはり偶然の積み重ねでしかなかった自らの生を想う。


明日もまた、淡々と同じような偶然の繰り返しが続くのだろう。

似たような殺戮、野蛮、暴力の炸裂。
追って追われて、殺し狙われて。




そして……何処へ行く?

いつまで続く?



もう思い出せないくらいずっと遠い昔から、まるで車輪がぐるぐると回るように、同じことを繰り返している、そんな気がしてならない。




寝返りを打つと、左頬を女の柔らかい髪の感触がくすぐった。
湿ったスカートの生地が手に触れ、条件反射のように握りしめる。


闇に慣れた視界の中、至近距離、微かに開いたままの女の口が見えた。乾きかけた唇。朧げに、整った歯列の狭間、暗い隙間が見えた。
微かにのぞく、死を孕んだ体内の闇。



時間の流れも、己の存在も、
全て飲み込んでくれそうな、深淵の色をしていた。




目を瞑り、そっと口づける。


冷たく乾いた感触を熱い唇に受け止めたとき、

このまま、もう、

どこにも行きたくないような気がした。








END




【作者後記】
ついに書いてしまいました…フェイの死姦ネタ(汗
作者の力量の関係上グロは多分これからも絶対ないですが、うっかりするとこういうダーク…というかどうしようもない人生を生きてい るような彼が出てきてしまうようです。
このお話を受け入れて頂ける寛容な方は…なんだかおられないような気がしますが。というか普通に面白くないですね…。要は死体とヤって、勝手に一人で日常に疲れちゃってる話ですから。


なお、以下、迷惑ついでに勝手なフェイ語りをお許しください。
こんな変な話ですが、管理人的には結構、(あくまでもうちのHPの)フェイという人物像をイメージする上で要となったエピソードだったりします。

私は本当にフェイには勝手な萌え方をしていまして、そこからくる妄想の中で彼は「死に値するほどの強い何かでしか押さえ切れない怒りと攻撃衝動、そして絶望を抱えている人間」ということになっています。
この「死に値する強い何か」というのは、例えば他人を殺すことであったり、死の脅威であったり、または自分の命をかけるような強い誓いであったりします。
蜘蛛という組織は彼にとって、上に上げた要素のうち、「自分の命をかける様な強い誓い」を「掟」という形でもたらしてくれる存在です。つまり、蜘蛛の存在 とその原則がかろうじて、彼の中にある狂気に近い衝動をうまく制御して、(反社会的ではあるが)人間として秩序だった行動をとることを可能にしているので す。これがなければ彼は単に、一人暴走して破滅的な狂気へと陥るしかなかっただろう、逆に言えば、蜘蛛にいることでかろうじて彼は他者とともに生きていくこと が可能になっている。そして、暴力的な行為が(あれでも)最小限抑えられている。
そういう解釈になっています。

つまり、本当に本当に暗い、多分うちのHPでは一番濃い闇を持つキャラになってしまっています。ごめんなさい。

では何故、彼がそんな人になってしまったのか?それについては、これまた長い長い妄想が……あります。(←やめなさいよ)
くどくなるのでここではさすがに語りませんが…。

…最後に余計ついでに更に言うと、表に出すかはわかりませんが、管理人は基本的に男女平等主義なので男死体姦バージョンbyフェイすらもあったり……す、すいません…(滝汗

というわけで、どうも、お目汚し失礼しましたm(_)m


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