rien ne peut nous lier plus fort que la promesse pour....
Brother
仲間が死んだ。
大きな身体ががあっけなく、消えた。
死体を見る事も無く、ただいなくなった。
「あー…変な感じだぜ。」
瓦礫の中で二人、ぼんやりと座り込んで宙を見つめる。
「実感、わかねえ。」
「最初はそんなものね。次第に何が起きたかわかてくる。」
(慣れてくる。不在に。)
「…ああ。知ってる。」
(どのみち、初めての経験ではない。)
「フェイ、」
「何ね。」
「…いや、やっぱりいい。」
「何。」
「いや、いい。」
「言てみるね。」
「……俺にとって、蜘蛛はよ、絶対だ。」
「で?」
「だから、絶対なんだ。」
「…で?」
「だけど…もしも、もしもだ。…俺が、迷ったりしたら。」
「迷う?」
「…迷って…うら…ぎったりしたら…」
「何を言うね。いきなり。」
「もしもの話だっていってんだろ。」
遠くで鳥の声がした。刹那の沈黙。
「…もしも、例えば俺が、鎖野郎に操られたりしたら…いや、実際そうでなくてもある日、蜘蛛の掟が指し示す方向から外れてしまったりしたら…」
躊躇、そして数呼吸後の決意。
「お前、一息に俺を殺してくれるか?」
フィンクスは言った。微塵のためらいも無く、反撃を許さぬ程完膚なきまでに完全に抹殺してくれるか、と。
恐ろしいほど真剣な眼差しで。
「———もちろんね。」
一瞬息をのんだけど、よどみなく言葉が口をついて出た。
途端、フィンクスの顔に広がったのは———安堵。
道に迷い途方に暮れた子供がようやく見知った路地を見いだした瞬間のような光が、その眼差しに浮かぶ。
それを見てひどくうろたえたのは自分だった。
「…言われなくてもそうするに決まてるね。」
狼狽を隠そうと、視線を反らし冷笑してみせる。
(何を…恐れている?)
(強く巨きいお前がほんの一瞬とはいえ、そんな表情を見せるなんて。)
ああだけど————
戦友、という言葉がふと浮かんで、消える。
きっと自分も同じ顔をしているのだ。
そうだ、私たちは恐れている。
恐いのは死ではない。
欲しいのは救済ではない。許しでもない。
こんなにも死の間近で、日々奪い、壊し、赤い血に手を染める生を選んだときから、そんな願いはとうに無縁となっていた。
自分が殺してきた幾千人もの人間を思う事等無かったし、これからも無いだろう。
殺す者は殺される。世の道理。それでも殺す。盗む。
従っている。世の道理と己の意志に。
残された道は、只、力つきて息絶えるその瞬間まで修羅を征くのみ。
だけど、戦友、
己の行く末にどんな覚悟が出来ていようとも、
いつの日かお前の目の前で、誓いを、覚悟を捨てた己を晒してしまうこと、それだけは耐えられない。
今こうあれと願う自分、蜘蛛のための私でなくなる日が来るくらいなら、その前に…消して欲しい。
(…叶うなら、他でもないお前のその手で。)
だから、言った。
「お前も、ワタシがそうなたら同じ事するよ、違うか?」
「…そうだな。多分、いや、間違いなく、殺るな。」
「ほら、同じ事ね。」
私の顔に浮かんだのも、微笑み。そして、
「何を心配してるか。ワタシ達は、」
「そうだな、俺たちは、」
死の約束を交わしながらも、胸の内に密やかに、だが確実にこみ上げるこの感情、
「何も変わらない。」
それは、どうしようもなく、切なく狂おしいまでの———歓喜。
戦友、
お前と私は、出会ったときから心を許し合っていたわけではない。
不信や反目もあった。
その度乗り越えて今、こうして共に居る。
運命とは不思議なもの。
人の世とは不可解なもの。
互いのためには誓ったものなど何も無い。
蜘蛛のために在ろう、ただそれだけ。
…だけど、予感がするのは何故だろう。
いつかどこかで、遠い先かすぐ明日かは知らないが、息絶えるそのときお前が側に居るような気がする。
他の仲間は居なくともお前だけは近くに在り続けてくれる、そんな気がする。
そのとき生きていようがいまいが、この身と共にいつまでも。
……どこまでも。
(戦友。)
(お前だけが、ずっと、そしてこれからも俺の一番側に居る。)
(お前が確実に俺を殺してくれると微笑んだから、全てを委ねることができる。)
(迷い無く、心から蜘蛛のために在ろうとすることができる。)
(これは確信。)
(この世で一番確かな、一瞬。)
死の約束が我等を結びつける。
何よりも強く、近くへと。
静寂の中、月だけが冴え冴えと虚空を照らしていた。
END
【作者後記】
イカれてるなー…(;´Д`)
こういうのとエロエロ18禁とどっちの方が危ナイかと問われれば私は間違いなくこっちだと思うんですが、世間的にはどうなんでしょと思う今日この頃…。