そう、世の中、おかしなことばかり
Break
キルアと別れて、旅をしていた。
ある日ふと魔が差して、繁華街のサウナに入った。
その筋の人には知れた場所。キルアが徘徊してたという噂もあったところ。
俺もキてるな、って自嘲する気分と、好奇心に胸が高鳴るのとの両方が入り交じって、肩に力が入ったまま個室に入る。
軋む音を立てて閉めた木製の戸には覗き穴がついてて、男達が小部屋の中を物色しながら廊下を通り過ぎていく。
蒸気で曇った視界の中、俺もぼんやりと、黒く穿たれたその一点を見つめる。ときどき見知らぬ誰かと目があいかけて、心臓が跳ねては視線を反らす事の繰り返し。
目を合わせない事を不同意の証と取るのだろう、一人も木戸を開けず通り過ぎていく。
足音が遠ざかるたび、安堵半分、拍子抜け半分で溜息が出た。
その時だ、ギイと音がして、戸が開き、俺はうつむいたまま身構える。
顔を上げた時視界に入った顔を見て、凍り付いた。
ヒソカがいた。
君の気配を感じたから立ち寄ってみたのさ。
そういって楽しそうに、アリーナの上であったときと同じ笑顔で微笑んでいる。
なんてこと。俺は気配を隠してたのに。そして、こっちは全然こいつの存在を予期すらしてなかった。
完璧な敗北。
それにしても、驚いたよ。君とこんなところで会うとは。男を捜しにくるようなタイプには見えなかったら、尚更だねえ。
のびた前髪をかき上げながら、こちらに近づいてくる。
俺より一回りは大きい体躯とその気配に、俺は圧倒されて動けない。
そしてやつは立ち止まると、それにしても君も大人になったね、と目を細めて、俺の首から下に熱い視線を投げ掛けてきた。当然、そのたくましい下半身に巻いた薄いタオルの下は既に、戦闘態勢だ。
最悪、と思った瞬間、意図に反して俺まで勃起した。
ちろりと口元から除くヒソカの赤い舌。
ああ、なんてこと。
俺、こいつとやるのかな。
というか……やられるんだろうな。
実は前にちょっとだけ、キルアと試した事があった。
そのときは今よりだいぶ若かったせいか、怖くて、涙が出そうなくらい痛かった。それでも一度はかろうじて最後までいけたけど、次からまた痛くてダメになったりして、俺には難易度高いかもと正直思ってた。
だけど今、ふらふらとこんなとこまできてしまって、ヒソカが目の前に居る。
これから何が起きるのか、わかりすぎるくらいわかってる。
ちょっと自暴自棄になってた。それは間違いない。
君と次会うのはアリーナの上だろうと思っていたけど、こういう形になるとはねえ。
くすりとヒソカが笑い、俺は視線を反らす。
見知った顔が知らない人のようにみえる。
ぬるい湯気のせいだけじゃない。空間が歪んでるみたいだ。
あ、まずい。
緊張してる。
ヒソカが俺の腕を取る。びくりと身体が反応した。
引き寄せられるのも、なされるがまま。
「だめだねえ。そんなに緊張しちゃあ、キモチよくなれないよ…」
低い、ささやき声。耳元で。
ぞくりと背中を何かが走った。一瞬、身体の力が抜ける。
「そう、それでいい。」
キルアより一回り大きい身体の、なんて圧倒的な存在感。
覆い被さる胴体が、屋根のよう。
そして、悔しいけどうまい。
キルアが下手だったとは思わないけど、違いは、そう、ためらいの無さ。
俺の反応一つ一つを気にかけながら、慎重に指を動かすキルアの前で、俺の体は快楽だけでなく、恐怖にもすごく敏感になってしまっていた。
あいつが心配そうに覗き込むから、我が侭を言いたくなって、それが別の意味で心地よくもあった。
だけど、ヒソカには俺に対する情なんて無いから、こっちの反応なんておかまい無しに、玩具をいじるような感覚で自分のやりたいように攻めて来る。俺はといえば情けない事に、要求をする暇もなく、ただ必死でそれを受け止めるだけ。
不思議なもので、強引に攻められると、それはそれで順応してこっちも反応を返したりする。予想もしなかった喘ぎ声が喉から出て、びびる。
まるで自分が別人になった気がした。
そしてついに、祈るような思いで迎えた「本番」。
俺も無駄に年はとってなかった。前と違って、一度入ればあとは何とかなった。
身体に比例して、ヒソカのはでかい。
強烈だった。
内蔵を掻き回されるような、感じ。
気持ちいいのと、耐えきれないのの紙一重みたいなすごい刺激に翻弄されて、とにかくやたら叫んだ。
背後から、もっと声を出しなよとか、いいね、君すごくいいよ、最高だ、とかヒソカが荒い息でささやいてるのが、朦朧とした意識の中に聞こえてたけど、どうでもよかった。
床に押し付けられて、背後から入れられて揺すぶられる。
湿った木の匂いがして、触れてる部分の肌は汗と蒸気でぐちゃぐちゃ。
わけが、わからない。そもそも薄暗いし、床しか見えないし、目を開けてても閉じてても、意味無い。
侵入され、引き裂かれて、頭に言葉の断片を浮かべるのがやっと。
まるで、自分が物になったような、気分。
空っぽになったような清々しさ。
空洞、空虚、絶叫。
だけど、いつの間にか、叫ぶのが気持ちいい。意味も無く音を吐き出し続けるのが、心地いい。
自我が、とけてく。
意識が白くなって、意味のある世界全て、一瞬後ろに遠のいた。
一緒に居るのがヒソカだとか、そういうことまでどうでもよくなった。
叫びながら目を閉じた時にふとよぎったのは、懐かしい友の笑顔。
キルア。
ねえ、君も…こんな気分だった?
それとも、もっと、何か別の…
思考が、中断される。
ヒソカが何かを叫んだ。知らない大陸の言葉なのか、俺にはよくわからない。
向こうの動きが一段と速くなって、俺も自分のを握る手に力をこめる。
そのとき、身体の中心から背筋を伝わり凄まじい感覚が走り抜けて、俺は達した。
* *
終わった後、抜け殻みたいな気分でタオルを巻いて座り込んでた。
呆然としてて思考がまとまらない。
何か嵐のようなものが俺の中を通り過ぎていった、そんな感じ。
気持ちよかった?
まあ、確かに。
というか、そんないいとか悪いとか考える余裕がなかった。
ただ、奔流に飲み込まれて溺れかけながら必死でもがいていたような。
どちらかというと、恐ろしいとさえ思えるような、紙一重の体験。
だけど、息も絶え絶えになったほんの一瞬の感覚、あれは、
―――恍惚とでも呼ぶの?
どちらにせよ、身体が重い。
重力が身体をつかまえるにまかせ、床に伏して目を閉じる。
フクザツなこと何も考える気力がなくて、妙に安らかな気分。
それでも、一応頭の中で確認してみる。
ああ、変なヤツと、変なセックスした。
ついに俺もやったな。
キルアと同罪。
だけど、何故か妙に清々しかった。
憂鬱で頭が破裂しそうな気分で街を歩いてた午後が、遥か昔のように思えた。
別にいきなり、感情が無くなったと言うわけじゃない。
でも今、全身で感じる床の湿り気と、そのちょっとカビ臭いような匂いと闇の暖かさに、自分の身一つでここに実在してると強く感じられる。
気分は悪くない。
ぼんやりとそんなことを考えていたら、不意にヒソカが言った。
今度会うのはバトルオリンピアあたりかな、と。
見なくても、あの恥じらいも無く楽しそうな笑みを浮かべているのだろうということがわかる。
そして、嬉しそうな声で続けた。
実は僕、セックスよりも格闘の方が、圧倒的に好きなんだよね。
一瞬あっけにとられたけど、そりゃそうだろうなこいつなら、とすぐ思った。
とりあえず、へえ、とだけ生返事。
変なやつ。狂ってる。
そんなやつとこんなところにいる俺も奇妙。
絶対に何かがもうおかしい。
だけど、とりあえず言ってみた。
うん、わかるよ、
俺もそっちの方が好きかもしれない。
そしたら何だか本当にそんな気がしてきて、可笑しくなった。
涙が出そうなくらいに。
FIN
〈作者後記〉
ヒソカ様ご生誕記念…にはちょっと遅うございますね。
なお、ついに、ゴン受で書いてしまいましたが、サキオ的には、彼は何でも出来そうというのがあるんで、さほど違和感は無かったりします。ただ、ゴン受嫌いな方にはごめんなさい。
お相手は別にヒソカさんでなくても良かったのですが(むしろうっかりヒソカファンの方が読んで「何これ?」と思ってしまわれる危険もありますし)、なんとなく…。(←説明になってませんね)
敢えて言うなら、個人的に、ヒソカとキルアは「表面に現れるものが似てるけど、根底にあるものが180度違う」みたいな二人と考えてるんで、なんか対比してみたくなったとでもいいましょうか…。あとは誕生日にかこつけて無理矢理〜みたいな(笑
なお、覚えてらっしゃる方がおられるかはわかりませんが、「紅い花」のエピローグキルアバージョンを書く、といいながら書けずに時ばかりたっていきます…。当初考えてた筋があったんですが、時の経過とともに「これ、だめじゃん」と思い始めてから進んどりません。というわけで、この話も含めて、何となく、あのエピソードの周辺をうろうろしながら、落ち着くような展開を考えてるという感じです(汗)。 (2005/6/10)
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